とある晴れた日、いつものように隊首室でギンの仕事の手伝いをしていると地獄蝶が入って来た。



――三番隊副隊長霜月ゆり殿、一番隊にて総隊長がお待ちです――



「なんや、総隊長さんがお呼びらしいで」
『私を?何でだろ』



不思議に思いながらも一番隊に向かうと、知らせ通りに総隊長が迎えてくれた。
副隊長とはいえ滅多に会うことはないので、なんだか緊張する。
独特な霊圧を前に委縮していると、総隊長が口を開いた。



「霜月ゆり、お主に零番隊からの引抜きの話が来ておる」
『零番隊、ですか!?』



零番隊――王族特務と呼ばれるその部隊は謎に包まれている。
隊長はおろか、そこに所属する隊士の素情を知る者はほとんどいない。
確か、昔十二番隊の曳舟隊長が零番隊に行ったと聞いてはいたが。



『何で私に……』
「お主の力を見込んでのことであろう。異動は一月後じゃ、それまでに引継ぎを済ませておくように」
『はい、わかりました』



断ることなどもちろんできない。
零番隊への昇進が嬉しくないといえば嘘になるけれど、恐らく護廷の人間には会えなくなるんだろう。
複雑な心境で隊に戻ると、ギンが笑顔で迎えてくれた。



「総隊長さんの話て何やったん?」
『ギン……私零番隊に異動だって』
「零番隊!?」
『うん、一月後』
「それはまた急な話やなあ」



その翌日、三番隊の新しい副隊長には吉良君がなると知らされた。
そして、私の零番隊昇進の話は瞬く間に広まっていった。



「ゆりが零番隊!?凄いじゃないの!」
「零番隊か。平子隊長が知ったら喜ぶだろうね」
「そうか、くれぐれも粗相のないようにな」



いろんな人がいろんな言葉をかけてくれて、嬉しいような気恥かしいような妙な気分だった。
そして、私のそれからの仕事は吉良君への引継ぎが主となった。



『吉良君、ギンはサボり癖があるから気を付けてね。あ、もしどうしても言うこと聞かないようだったら藍染隊長の名前を出せばいいから』
「わかりました。それにしても、霜月副隊長が居なくなると市丸隊長も寂しいでしょうね」



私の昇進が決まってからというもの、ギンはより一層仕事をしなくなった。
たまに机に向かっていると思えば上の空で、何を言っても聞きやしない。
もう少しで会えなくなるというのに、これではまともに話もできない。



『ギン聞いてる?』
「あ、何やったっけ?」
『もう、今日の夜空いてるかって聞いてんの』
「あー空いとるよ」
『じゃあギンの部屋に行くから』



やっとのことで約束を取り付けはしたけれど、果たして覚えているのかどうか。
仕事を終えて重い足取りでギンの部屋に向かえば、散らかった部屋の中で寝転がっている彼の姿があった。


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