「ゆりがギンの副官だなんて許せないわ」



ここは三番隊の隊首室。
何故か乱菊は我が物顔でソファに座ってお菓子を食べている。
これがいつもの光景になりつつあるのが怖い。



「文句言うてないでさっさと帰りや。此処は三番隊や」
「煩いわね、自分がいつもゆりと居られるからって」
「そないなこと言うても、ゆりはボクの副官なんやから」
「だから、それが許せないって言ってんのよ」
『はいはい、二人とも止めてね。乱菊はさっさと仕事に戻る、ギンは隊首会でしょ』



藍染隊長に言いつけると言えば、ギンは一瞬でその場から消えた。
困った時には自分の名前を出せと言ってくれた藍染隊長の言葉通り、彼の名前を出せば大抵のことは解決できるみたいだ。



『乱菊も戻りなよ』
「ちょっとくらいいいじゃない。そうだ、私ゆりに聞きたいことがあるのよ」



一向に帰る素振りを見せない乱菊は、私に座れと言ってお菓子を差し出してきた。
仕方なくそれを受け取って彼女の向かいに座ると、テーブルに身を乗り出して乱菊が話出した。



「アンタ、ギンのこと好きでしょ?」
『は?』
「隠さなくてもいいのよ、この私に話しちゃいなさいよ!」



ポンと胸を叩く乱菊。
いきなりそんなことを言われても、どうしていいのかわからずに戸惑う。
別にギンのことは嫌いじゃないけど、好きだけど、でも好きっていうのはたぶん友達としてで……



「何悩んでんの、ギンはどう見てもゆりのこと好きなんだし、隊長になっちゃえば回りもとやかく言わないんじゃないの?」
『いや、そんなことないって』
「そんなことあるわよ!でなきゃわざわざ自分の隊の副官にする?本当ならアンタは五番隊の副隊長になるはずだったのよ」



それは知っている。
副隊長になって少し経って、藍染隊長が笑いながら話してくれたのだ。
ギンが抜けることで空席になる五番隊の副隊長は、私ということでほぼ決まっていたらしい。
しかし、ギンがそれを無理矢理変えたと聞いていた。



『だってほら、ギンはまだ隊長になりたてだし、副官がいないと辛いんじゃない?』
「絶対にそれだけじゃないわよ。職権濫用よ!」
『まあ……』



乱菊の剣幕に押されて、それ以上は何も言えなかった。
結局、私はギンのことが好きだけどそれは乱菊に対する好きっていうのと同じもので特別なものじゃないという説明はしたけれど、果たして彼女がそれを信じていたのかどうか。



『私から見ればギンは乱菊のことが好きなんだと思うんだけど……』
「どないしたん?浮かない顔して」
『ギ、ギン!』



乱菊が帰った後、ぼんやりとしていると後ろから声が聞こえた。
どうやら独り言は聞こえていなかったらしく、ほっと胸を撫で下ろした。



「相変わらず隊首会いうんはつまらんもんやね」
『そんなこと言わないの。はい、お茶』
「おおきに」



笑顔でお茶を受け取るギンは昔のままで。
それでも今や隊長となった彼は、やっぱり私の手の届かないところに居るんだと思う。
もしかしたら、私はギンのことが好きなのかもしれない。
友達としてではなく特別な存在として。
人に言われて気づくなんて、私も馬鹿だな。


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