「ゆり君、大丈夫かい?」
『はい!この通り元気ですよ!』



真兄が居なくなって何週間か経った。
あの日から数日間は寂しくて寂しくて、文字通り心にぽっかりと穴が開いたみたいだった。
それでも、そんな私を気遣ってくれるギン、乱菊、そして藍染副隊長のおかげで私は少しずつではあるけれど心の整理をすることができた。



「そうか。でも、何かあったらいつでも僕かギンを頼るんだよ?君に何かあったら平子隊長に怒られそうだからね」



そして、今日は引っ越しの日。
隊長である真兄が居なくなったのに、いつまでもこの部屋に住み続けるわけにはいかない。
そう思って、五番隊の宿舎に移動することにしたのだ。
副隊長はそのまま住んでていいって言ってくれたけれど、正直に言えば真兄と一緒に暮らしたこの部屋に一人で住むのは辛かった。
たった一年間ではあったけれど、たくさんの思い出が詰まっていたから。



『ありがと、真兄』



居なくなったこの部屋の主に別れを告げて、新しい部屋へと向かった。
少ない荷物を整理していると、明るい声が聞こえてきた。



「ゆり、引っ越し祝い持ってきたわよ!」
『乱菊!ギンもありがと』
「気にせんでええよ。いつも迷惑かけとるんは乱菊やしなあ」
「何よそれ!アンタこそいつもゆりの仕事の邪魔してんでしょ」
「邪魔なんてしてへんよ。ボクの補佐するんがゆりの仕事やし」



いつものように言い合いを始めた二人を宥める。
五番隊の皆が私に哀れみの視線を向ける中、この二人はいつもと変わらずに接してくれた。
一人で部屋にいると寂しいんじゃないかと言って毎日のように泊まりにきてくれた。
ギンに至っては、いつもは逃げ出そうと必死なのに、私の分の仕事までこなしてくれた。



『二人とも、本当にありがとう』
「何言ってんの、別にお礼言われるようなことなんてしてないわよ」
「そや、乱菊のはただのおせっかいや」



いつもの調子で返してくれる二人だけど、そんなやりとりにほっとする。



「ほら、蕎麦持ってきたから!」
「引っ越し言うたら蕎麦やろ」
『そうだね、食べようか』



真兄、真兄が居なくなるなんて想像もできなくて、今はまだ寂しくて悲しくて、私ってまだまだ子供なんだなって思うんだ。
でも、私は大丈夫だよ。
根拠はないけど、いつかまた真兄に会える気がするんだ。
だって、皆真兄は逃げたって言ってたから。
私を残してどっかに行っちゃうなんて許せないけど、でもいつかきっと会えるって信じてるから。

この時の私は真兄が居なくなったという事実があまりにも大きすぎて忘れていたんだ。
真兄が隊長として、兄として私に忠告してくれたことを。


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