それから数日後、夕食を食べているとふいに真兄が箸を置いた。
もしかして美味しくなかったのかなと声をかけようとすると、先に真兄が口を開いた。



「ゆり、一つ話しておきたいことがあんねん」
『どうしたの?急に』



真兄はいつになく真剣な表情で、何か大事なことなんだろうとすぐにわかった。
そして、一つ息を吐くと真兄は話を続けた。



「もし、もし俺が居らんようになっても、ゆりは大丈夫か?」
『何言ってんの、真兄が居なくなるなんて』



ありえないと言おうとしたけれど、あまりにも真剣な表情にそんなことは言えなかった。
事実、隊長というのは危険な任務につくこともある。
いくら強いとはいえ、もしものことがないとは言い切れない。



『大丈夫だよ、私だってもう子供じゃないし』



少しおどけた風に言ったけれど、真兄の表情は真剣なままだ。
でも、少し時間を置いたあと、いつものようにニカッと笑った。



「せやな、ゆりももう餓鬼やないしな」
『そうだよ、変な真兄』



そしていつものように笑いあった私達だけど、この時どうしようもない不安が私を襲っていた。
いつも飄々としている真兄がいきなりあんなことを言い出すからだ。
きっとただそれだけのこと。



「でもな、もし俺に何かあったら……」



その続きの話に、私はただ頷くことしかできなかった。



「ギン、明日は……」
「わかってます」
「大丈夫かい?」
「何がですか」
「いや、何でもないよ」



そしてその次の日、運命の時は訪れた。
いつものように真兄と隊舎に行って、いつものように仕事をして、いつものように二人で夕飯を食べていた時、真兄の元に一匹の地獄蝶がやってきた。
九番隊の隊長、副隊長の霊圧が消失した、と。
そして、緊急の隊首会が開かれて真兄は一番隊へと向かった。



「ほな、行ってくるわ」
『気を付けてね』
「当たり前や、誰に物言うとるんじゃ」
『はいはい。五番隊隊長様です』
「わかっとるんならええわ。ゆりも気い付けや」



そう言って私の頭をくしゃりと撫でた。
真兄はよくこうして私の頭を撫でる。
くすぐったいような気持ちいいような、変な感じだけど私はそれが嫌いじゃなかった。
まるで本当の兄妹みたいだったから。


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