翌日、仕事が終わってギンの部屋に三人で集まった。 開口一番、私は平子隊長のところでお世話になることになったと二人に伝えた。 「よかったじゃない、平子隊長って優しそうだし」 『優しいっていうか、気心が知れてるから楽かな』 「なんやゆり、寂しいんやったらボクんとこ来ればいいのに」 「何言ってんの、アンタの部屋にゆりを住まわせるだなんて私が許さないからね」 いつもの調子でギンと乱菊が言いあいを始める。 この二人は知り合った時からそうだった。 流魂街で一緒に暮らしていたらしいし、かなり仲がいいんだろう。 「ちょっと、何笑うてんの」 『いや、二人とも仲がいいなって』 「仲がいいんじゃないの、ただの腐れ縁なんだから」 『はいはい』 こんな二人を見るのが好きだった。 私には同じ歳くらいの友人なんていなかったから。 周りにいるのは大人ばかりで、歳のわりに大人びていると良く言われるのもきっとそのせいなんだろう。 「仲がええんはボクとゆりや。乱菊はあっち行きや」 「ちょっと何言ってんの、私のゆりを取らないでよね!」 また騒ぎ出した二人を止めるべく、間に入る。 今にも手を出しそうだった二人は私を見て動きを止めた。 『はーい二人とも、いい加減にしないと私帰るからね』 やっと静かになった二人とともに夕食を取る。 隊長と二人で食べるのも楽しいけど、隊長と友人はなんだか違う。 こちらはこちらで楽しいものだ。 ふと時計に目をやれば、十時の門限まであと少ししかない。 『あ、もう帰らなきゃ』 「随分と早いのね?」 『門限があるの、隊長に怒られる!』 急いで部屋を出ようとすると、ギンに腕を掴まれた。 「送ってく」 『いいよ、すぐ近くだし』 「ええから、ほら」 ぐいぐいと引っ張られる形で、乱菊に別れを告げてギンと部屋を出た。 未だに掴まれたままの右手が痛い。 『ギン、腕痛い……』 「あ、ごめんな、つい……」 『どうしたの?なんか変だよ』 「別に何もないよ。ただ……」 そう言ってギンは黙り込んでしまった。 隣を歩く横顔はなんだか切ない表情をしている。 いつもはへらへらと笑っている彼だからこそ、余計に心配になった。 『ねえギン、私にできることがあったら何でも言ってね?力になるから』 「あ、うん……おおきに」 『じゃあ、送ってくれてありがと!』 部屋の前に着いた私はギンに別れを告げて玄関の戸を開けた。 居間には明かりが付いていて、少し顔の赤い隊長が迎えてくれた。 『ただいま、真兄。お酒飲んできたの?』 「おかえり、ちょっとないつもの奴らと飲んでたんや」 他の隊の隊長や副隊長のことだろう。 いつもよりさらに上機嫌な隊長は今日の出来事なんかを話してくれて、私もギンと乱菊とのことを話した。 何の変哲もない光景だけど、私にはまるでそれが宝物のように思えた。 ← back |