「霜月君、平子隊長の部屋に住むことになったんだってね」 『あ……はい』 隊長の部屋に移った次の日、隊舎へ行くと真っ先に藍染副隊長に会った。 彼はすでにこのことを知っていたようで、よかったねと一言言ってくれた。 「隊長は随分と君のことを気にかけていたからね。今頃ほっとしているだろう」 平子隊長は、私が思っているよりもずっと私のことを大切にしてくれているんだと思う。 勝手に家を飛び出してきた私を、今もこうして心配してくれている。 それだけでも死神になってよかったと思った。 『隊長、おかえりなさい』 「しゃあから隊長やない言うとるやろうが」 『あ、真兄おかえり』 「それでええ」 せめてもの感謝の印に、と今日は夕飯を作った。 とは言っても今まで料理なんてまともにしたことがないし、隊長の好みもわからない。 出来上がったのは何とも見栄えの悪いもので、普段美味しいものを食べているであろう隊長の口に合うかどうか。 「お、ゆりが作ってくれたんか」 『はい、口に合うかどうかはわからないけど……』 「匂いが美味そうやからきっと美味いで。ほな、いただきます」 隊長が料理を口に運ぶ様子をじっと見つめる。 心臓の辺りがどきどきしていて、今にも破裂しそうだ。 「美味い!ゆり意外と上手やんけ」 『良かった!』 「ただ、もう少し見栄え良くできるように練習せんとな」 『頑張りますね』 美味しいと一言言ってもらえただけでこんなにも嬉しいものなんだ。 次々と料理を口に運ぶ隊長を見るに、本当に不味くはないんだと思う。 お世話になっているんだから、これからはもっと腕を磨いていつか隊長をあっと驚かせてやろう。 「せや、今日松本とかいう子が隊に来とったで」 『松本乱菊ですか?』 「確かそんな名前やった。何でもお前の部屋に行ったらもぬけの殻やったさかい心配した言うとったで」 そういえば、乱菊にまだ部屋を移ったことを言ってなかったな。 明日の昼休みにでも言いに行こう。 「ほんでお前市丸にも言うてないんやろ?今日えらい剣幕で俺んとこに怒鳴りこみに来よったで」 ケラケラと笑いながら、隊長は眉毛を釣り上げて見せた。 恐らくその時のギンの真似……だろう。 「ちゃんと言うてやれや。アイツもゆりんこと心配しとるはずや」 はい、と苦笑まじりに答えると隊長は安心したような顔をした。 『隊長……真兄ってお父さんみたい』 「俺が親父ってなんやねん。そない年くってないわ」 拗ねたような表情をする隊長に、笑いが零れる。 家でこんなに楽しい食事をするのなんて初めてだ。 明日、乱菊とギンに話をしよう。 私は幸せ者だって。 ←→ back |