>> 1 新しい上司にも慣れ、いつもと同じような日々を過ごしていたある日、香奈は仕事終わりに乱菊と呑みに来ていた。 「日番谷部長って本当に20歳なのかしら?可愛いわよね〜」 『一応上司なんだから、そんなこと言わないの』 だって可愛いんだものと言いながら大量の酒を煽る乱菊の横で、香奈はちびちびと酒を口にする。 「そういえば香奈、明日何か予定ある?」 今日は金曜日、ということは明日は土曜日だ。 生憎、休日を共に過ごす相手などいない香奈は特に予定はないと言った。 「じゃあ、明日ちょっと付き合ってよ。ライブがあるのよ」 『ライブ?』 新しくアーティストを発掘するのも自分たちの仕事。 いいバンドでも見つけたのだろうかと思い乱菊に聞くと、彼女は首を横に振った。 「知り合いよ。というか、幼馴染」 変な奴なんだけどねという乱菊の横顔を見ながら、香奈は明日のライブを楽しみに思っていた。 『聴いてみてよかったら、ウチで世話しよう』 翌日、夕方に乱菊と落ち合い、香奈はライブハウスへと向かう。 『小さなとこでやるんだ』 「まあ、趣味でやってるだけみたいだしこんなもんでしょ」 中へ入ると鼻につくような煙草の匂い。 学生時代を懐かしみながら、香奈は目当てのバンドの出番を待つ。 「次よ」 乱菊に言われてステージを見ると、照明を落としたまま演奏が始まった。 『綺麗…』 演奏者の姿は見えないが、奏でられる音は重く激しくそして美しかった。 一曲目が終わり、ステージに照明が向けられる。 それまで見えなかった演奏者がライトに映し出された。 『嘘……………』 一番に目に入ったのは、マイクを持つ長身の男。 その男は香奈の記憶の中の少年と同じ銀色の髪をしていた。 『ギン………?』 後に続く演奏はもはや香奈の耳には入らなかった。 香奈はただその男に食い入るように魅入っていた。 prev//next back |