>> 1 新しい部屋に引っ越して一ヶ月、会社と家を往復するだけの毎日。 Faustのデビューを一週間後に控え、仕事量も必然的に増えていった。 『デビューライブの曲目はこれでいいですか?』 「ええで。あ、でもラストに新曲やろう思うてんねん」 今話しているのは、Faustのデビューライブの内容。 報道陣も多く呼んで宣伝も兼ねたライブにする予定だ。 『新曲、ですか。聞かせてもらえますか?』 「それは無理やなァ〜当日のお楽しみや」 ニタニタと笑う真子に、何か面白いことでもやってくれるのかと期待してしまう。 「せや、市丸サンとは上手くいってんのやろうな?」 『えっ…』 急にギンの話をされて戸惑ってしまった。 真子も動揺に気づいているようだ。 「その様子やと上手くいってないんとちゃうか?まあ、駄目んなったら俺がもらったるわ」 『冗談はやめてくださいよ』 冗談とちゃうんやけどなァと笑う真子に思わず笑みが零れる。 こんな風に笑いあえる日が来るなんて思いもしなかったのに。 「なァ乱菊、香奈は元気しとる?」 香奈が部屋から消えて一ヶ月、ギンは毎日のように私を訪ねてくる。 何回か会社にも来たけど、香奈に会わせるわけにはいかないから受付で追い払ってやった。 「香奈なら元気すぎて困るくらいよ!アンタなんかいなくてもあの子は大丈夫よ。それに比べてアンタは…」 横で項垂れる幼馴染を見る。 酷い隈、明らかにやつれた顔、そこそこ整った顔なのに今は見る影もない。 人ってたった一ヶ月でここまで変わるものかしら。 「それよりこれ、真子からアンタにって」 忘れないうちに真子から預かったものを渡す。 案の定、ギンは何のことかわからずに首を傾げている。 「何や、ボクへの宣戦布告か何かやろか…」 「いいから中見てみなさい」 封筒の中に入っていたのは一通の手紙。 それと、一枚のCD。 「なんやのこれ?」 中身を知ってるのは、これを贈った本人と私だけ。 これで二人がどうにかなればいいんだけど。 prev//next back |