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ギンと“恋人”となってからというもの、香奈は幸せを感じていた。
仕事が終わるとギンが会社まで迎えに来て、一緒に手を繋いで帰る。
ありきたりな恋人同士の姿のようにも思えるが、香奈にとっては学生時代以来の純粋な“恋”だったのだ。



「なァ香奈、さっきからえらい視線感じるんやけど」



ギンに言われて後ろを振り返ると、誰かが物陰にさっと隠れた。



『誰かに後付けられてるのかな?』

「香奈のストーカーやないの?」

『まさか。ストーカーされるならギンでしょ』



笑いながら話す二人をじっと見つめる一人の女。
この女が二人にとって最悪の結末をもたらすなどとは、まだ誰も知らなかった。



「せや、今日の夕飯はボクが作ったる」

『ほんと?じゃあ何がいいかな〜』



手を繋いで歩く二人の頭上に、一瞬暗雲が漂ったような気がした。

次の日、今日はギンが仕事のため香奈は一人家路につく。
今日の夕飯は何にしようかななんて考えながら歩いていると、背後に人の気配を感じた。



『誰!?』



さっと後ろを振り向くと、何やら派手な出で立ちの女がうっすらと笑みを浮かべていた。



「はじめまして、美空香奈さん」

『何で私の名前を…』

「あら、ギンから聞いていないのね」



ふふ…と気味の悪い笑顔で女は言う。
思わず女と距離をとった。



「そんなに警戒しなくてもいいのに。私は“リナ”よ。ギンの恋人」

『えっ…』



思わず言葉を失う。
ギンの恋人?
私が恋人のはず…



「今日はそれを伝えにきただけよ。じゃあね」



それだけ言うと、女は去っていた。
カツカツとヒールの音を立てながら。



『恋…人………』



女の言葉が頭の中で繰り返される。



「あの…市丸さんですか?」

「せやけど、お宅何方?」



ボクの店にやってきたお客さん。
珍しく店で接客をしてたボクに話しかけてきた。



「私、東リナといいます。香奈さんのことでちょっと…」



香奈のこと知っとるん?
何や怪しいとは思うたけど、とりあえず店の奥に通した。



「で、話ってなんですの?」



香奈の話やなんて、友達か何かやろか。



「私、平子真子と付き合っているのですが、最近…」



ちょっと待て。
Faustの平子サンと香奈と何の関係があるんや?



「真子が浮気しているみたいなんです」

「ちょっと待ってや、お姉さん。平子サンと香奈と何の関係があるんや?」



東とかいう女はふっと笑った。
何や…気にくわへん。



「ご存知ないのですか?真子と香奈さんは昔…学生時代恋人同士だったんですよ」



はァ?
ボク香奈からそないな話聞いたことないんやけど。
平子サンが香奈に気あることはわかっとったけど、二人はそないな関係やったんかいな。
そんなら、平子サンの浮気相手って…



「その浮気相手が香奈だと?」

「はい…」



嘘やろ?
香奈が浮気なんてするはずない。

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