>> 1 ギンと“恋人”となってからというもの、香奈は幸せを感じていた。 仕事が終わるとギンが会社まで迎えに来て、一緒に手を繋いで帰る。 ありきたりな恋人同士の姿のようにも思えるが、香奈にとっては学生時代以来の純粋な“恋”だったのだ。 「なァ香奈、さっきからえらい視線感じるんやけど」 ギンに言われて後ろを振り返ると、誰かが物陰にさっと隠れた。 『誰かに後付けられてるのかな?』 「香奈のストーカーやないの?」 『まさか。ストーカーされるならギンでしょ』 笑いながら話す二人をじっと見つめる一人の女。 この女が二人にとって最悪の結末をもたらすなどとは、まだ誰も知らなかった。 「せや、今日の夕飯はボクが作ったる」 『ほんと?じゃあ何がいいかな〜』 手を繋いで歩く二人の頭上に、一瞬暗雲が漂ったような気がした。 次の日、今日はギンが仕事のため香奈は一人家路につく。 今日の夕飯は何にしようかななんて考えながら歩いていると、背後に人の気配を感じた。 『誰!?』 さっと後ろを振り向くと、何やら派手な出で立ちの女がうっすらと笑みを浮かべていた。 「はじめまして、美空香奈さん」 『何で私の名前を…』 「あら、ギンから聞いていないのね」 ふふ…と気味の悪い笑顔で女は言う。 思わず女と距離をとった。 「そんなに警戒しなくてもいいのに。私は“リナ”よ。ギンの恋人」 『えっ…』 思わず言葉を失う。 ギンの恋人? 私が恋人のはず… 「今日はそれを伝えにきただけよ。じゃあね」 それだけ言うと、女は去っていた。 カツカツとヒールの音を立てながら。 『恋…人………』 女の言葉が頭の中で繰り返される。 「あの…市丸さんですか?」 「せやけど、お宅何方?」 ボクの店にやってきたお客さん。 珍しく店で接客をしてたボクに話しかけてきた。 「私、東リナといいます。香奈さんのことでちょっと…」 香奈のこと知っとるん? 何や怪しいとは思うたけど、とりあえず店の奥に通した。 「で、話ってなんですの?」 香奈の話やなんて、友達か何かやろか。 「私、平子真子と付き合っているのですが、最近…」 ちょっと待て。 Faustの平子サンと香奈と何の関係があるんや? 「真子が浮気しているみたいなんです」 「ちょっと待ってや、お姉さん。平子サンと香奈と何の関係があるんや?」 東とかいう女はふっと笑った。 何や…気にくわへん。 「ご存知ないのですか?真子と香奈さんは昔…学生時代恋人同士だったんですよ」 はァ? ボク香奈からそないな話聞いたことないんやけど。 平子サンが香奈に気あることはわかっとったけど、二人はそないな関係やったんかいな。 そんなら、平子サンの浮気相手って… 「その浮気相手が香奈だと?」 「はい…」 嘘やろ? 香奈が浮気なんてするはずない。 prev//next back |