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ギンに指輪を貰って以来、香奈は毎日のようにギンと互いの部屋を行き来していた。
とは言っても二人の関係に大きな変化はなく、“友人”としての日々を過ごしていた。
あの日…再会した日の夜以来、ギンは一度も香奈に触れることはなかった。



―今日は外でご飯でも食べよ。

―わかった。仕事終わったら連絡するね。



無機質な機械で繋がれた言葉。
それでも香奈にとっては温かさを感じるものだった。



「香奈、ギンとは上手くやってんの?」



そう聞いてきたのは乱菊。
昼休憩中の二人は社内の食堂で食事をしていた。



『上手くっていうか、友達』

「友達、ねえ〜。そのメールもギンからなんでしょ?」



乱菊の指差す先には香奈の携帯。
どうやらこの友人は勘が鋭いようだ。



『うん。今日の夜何か食べに行こうって』



最近私が作ってばっかりだったしねと言いながら、香奈は携帯をポケットにしまう。



「アンタたちってさ〜付き合ってんじゃないの?」



乱菊は、ずっと疑問に思っていたことを投げかける。
確かに、傍から見れば二人は恋人同士ともとれるような生活をしている。



『そんなんじゃないよ。一緒にご飯は食べるけど、何もしないし』

「ふ〜ん…」



何か言いたげな様子の乱菊をちらりと見て、香奈は安心させるように微笑む。



『“今は”ね』



先に行くよ、と席を立ち、香奈は仕事に戻った。
午後からはFaustとの打ち合わせ。
気が進まないながらも、香奈は会社の近くの待ち合わせ場所へと向かう。



「久しぶりやなァ香奈」

『お久しぶりです平子さん。松本にまかせっきりですみません』



香奈はわざとらしく頭を下げ、真子の前に座った。
このFaustというバンドはリーダーの真子が全権を握っているらしく、真子以外のメンバーが打ち合わせの席に来ることはめったになかった。



「今日は…デビューシングルの衣装やろ?」

『ええ。何か具体的なデザインのご希望があればお伺いしたいと思いまして』



二ヵ月後に迫ったFaustのメジャーデビュー。
香奈の仕事量も日が経つにつれ増えていた。



「衣装はこっちでデザイン考えてんねや。しゃあけどアクセサリーがな…」

『使いたいブランドがあれば、こちらで話をつけます』

「“LUSTY”使いたい思うてんねやけど、あそこってそういうん断るっちゅう噂やないか。どうにかできる?」

『LUSTYですか…』



香奈は言葉に詰まってしまった。
確かに、ギンのブランドLUSTYはアーティストはもちろんのこと、雑誌などにもアクセサリーを提供しないということで有名だ。
もっともそれが人気の理由の一つでもあるのだが。



「さすがに難しいよなァ〜」



仰け反り欠伸をする真子に、香奈は考えておきますと返すだけで精一杯だった。

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