>> 1 「香奈、俺たち…別れよう」 半年付き合った彼氏に別れを告げられ、一人夜道を歩く女。 彼女の名は美空香奈。 『またか…』 ぽつりと呟くその声は、夜の闇に消えていく。 “別れたくない” そんな可愛げのある言葉を言えるはずもなく、黙って頷き部屋を出てきてしまった。 もうこれで何人目だろうか。 彼女の容姿は決して悪いわけではなく、これまでも何人もの男性と付き合ってきた。 しかし、最後には今日のように別れを告げられる。 『男なんて嫌い』 彼女の口癖だ。 特に何があったわけでもないが、彼女は男性をよく思っていない。 ちょっと笑顔を見せればすぐにこちらに気持ちを傾け、ちょっとそっけなくすればすぐに離れていく。 『馬鹿みたい』 彼女の言葉の指すものは、世の男性に対してかはたまた彼女自身に対してか… 翌日、いつものように会社へと向かう。 彼女はいわゆるキャリアウーマン。 会社に着くと、皆が彼女に挨拶をする。 「おはようございます、美空さん」 『おはよう』 特に笑顔を向けるでもなく、いくつもの挨拶に答えていく。 自らの席に着くと、すぐに仕事にとりかかる。 「おはよう、香奈」 『乱菊、今日は早いのね』 彼女の隣の席にすでに座っていた女、松本乱菊は同僚だ。 友人と呼べる存在の少ない香奈にとって、唯一の親友である。 「失礼ね!私だってたまには早く来るわよ!」 金髪の長い髪に同姓から羨まれるような体系、加えて持ち前の姉後肌。 香奈とは正反対とも思えるこの乱菊とは不思議と気が合った。 いや、正反対だからこそ気が合うのかもしれない。 『あ、私彼氏と別れたから』 この親友には一応報告しておこうと思い、香奈は昨日の出来事を話した。 「またぁ!?アンタ本当長続きしないわね〜」 呆れたような表情の乱菊もいつものことだ。 『大きなお世話よ。さ、仕事始めましょ』 こうして、いつものごとくデスクの上のパソコンに向かった。 prev//next back |