>> 1 あれは大学の入学式の日。 着慣れないスーツに身を包んで、新しい生活にわくわくしていた。 『入学式疲れたな〜』 大学の入学式が終わり、することもない香奈は一人満開の桜の木の下で鼻歌を歌っていた。 「なんや、先客がおったんかいな」 ふと声が聞こえて振り返ると、金髪の青年が立っていた。 スーツを着ているところをみると、同じ新入生だろうか。 「君も一年?」 『はい』 その青年は特に断りもせずに香奈の横に座った。 「俺は平子真子。経済学部の一年や」 君は?と聞かれて、香奈も口を開く。 『美空香奈です。私も経済』 「一緒やないか!よかったわ、こっちに出てきて友達おらんかってん。俺んことは真子でええ、仲良うしてや」 すっと差し出された手を香奈はとった。 『よろしく』 偶然の出会いだった。 そして…これが始まりだった。 それから香奈は真子とよく一緒に居た。 講義を受けるにも食事をするにも、同じ学部の二人はいつも一緒だった。 変化が訪れたのは二人が入学してから初めての夏休みを迎えた頃だった。 「なァ香奈、俺バンドやろう思ってんねん」 『バンド?あ〜真子ギター弾けるんだったね』 お互いの家に行くことも多かった二人は、互いの趣味についてもよく知っていた。 『メンバーは?集まったの?』 「大方はな。せやけどボーカルがな…」 バンドの顔が決まってないなら活動できないじゃんと笑う香奈の顔を真子がすっと見る。 「香奈にボーカルやってほしいんや」 『はぁ?私にできるわけないじゃん』 何言ってるのと背中を叩いてくる香奈の肩を掴み、真子は真面目な顔になる。 「初めて俺らが会うた時、香奈歌うてたやろ?」 『…あれはただの鼻歌だって』 「そうかもしれんけど、俺はあん時思うたんや、絶対この子はボーカリストになるべきやって」 まっすぐに見つめられて言われると、香奈は何も言えなかった。 『でも私…』 「大丈夫や、俺が教えたる。この真子様が教えるんやで?香奈は何も心配せんでええねん」 馬鹿じゃないの?と悪態をつきながらも、香奈はこの真子の申し出を嬉しく思っていた。 『ボーカル、か…』 prev//next back |