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翌日、出社した香奈を待ち構えていたのは乱菊の質問攻めだった。



「香奈!ギンとはあの後どうなった?」



キラキラした表情で聞いてくる乱菊。
嘘をついても後々バレるだろうと思い、香奈は正直に話す。



『ギンと同じマンションだってことがわかって、一緒に部屋で飲んで…』

「嘘!同じマンションだったの?そういえば、私ギンの家行ったことないわ。で!その後は!?」

『気づいたら朝で…』

「朝!?ってことは…………寝たの!?」

『っ!声が大きい!!!!』



香奈は大声で叫んだ乱菊の口を無理やり押さえる。
ごめんと手を合わせる乱菊を見て渋々手を離す。



『で、その後ギンの店に行って指のサイズ測られた』

「ギンが!?嘘でしょ!?」



乱菊は酷く驚いたような表情をしていたが、香奈はなぜそんなに驚くのかわからなかった。



『そんなに驚かなくてもいいじゃない。どうせいろんな女の子にプレゼントしてるんだろうし』



不思議そうな顔をしている香奈を他所に、乱菊は納得したような表情をしている。



「ギンの言ってた“香奈”ってアンタのことだったのね〜」

『何の話?』

「いいの、こっちの話」



そういえば部長が呼んでたわよと言われ、香奈は席を立った。



『なんですか、日番谷部長』



香奈は部長の日番谷のところへ向かい、要件を尋ねた。
日番谷はいつものごとく眉間に皺を寄せている。



「美空、お前に頼みがあるんだが…」

『頼み?珍しいですね』

「今ウチの会社が目を付けてるバンドなんだがな、どうしても手に入れられないみたいなんだ」

『もしかして…“Faust”ですか?』

「ああ」



香奈は思わず眉間に皺を寄せる。
Faustというのは、今巷で話題のインディーズバンドだ。
実力、人気ともに十分すぎるほどにあるのだが、決してメジャーに行こうとせずに自らのインディーズレーベルで活動している。
香奈の会社だけでなく、ほとんどのところが喉から手が出るほどに欲しがっているバンドだ。



『それで、私に説得に行けと?』

「お前ならできるかもしれないと上に言われてな」



香奈がこの年で今の地位にいる理由。
その一つが”狙ったものは必ず手に入れる”ということだ。
今まで絶対に手に入らないと言われてきた数々のアーティストを、香奈はこの会社に引き込んできたのだ。
その実績を買われてか、今回も香奈に話が回ってきたのだ。



『申し訳ありませんが、それは出来かねます』



香奈は日番谷に頭を下げた。
日番谷は当然了承してくれるものだろうと思っていたので、酷く驚いている。



「何故だ?確かにFaustは難しいだろうが、お前なら…」



その時だった。
こっそりと話を聞いていた乱菊が割り込んできた。



「やります!それ私にもやらせてください!ね、いいでしょ香奈?」

『ちょっと乱菊、私は…』

「いいじゃない、アンタなら大丈夫よ!それに、私Faust好きなのよね〜」



未だに浮かない顔をしている香奈を他所に、日番谷と乱菊は二人で話を進めていく。



「今日の午後から向こうと時間をとっているらしい。早速だが頼んだぞ」

「はいは〜い、任せてください!」



明るい乱菊の声とともに、香奈は渋々席に戻った。

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