>> 4 いよいよライブが始まった。 客席の照明が落ち、大きな歓声とともにメンバーが出てくる。 「こんばんは〜Faustです〜」 中央に立つのは真子。 ギタリストでありながらボーカルもこなす彼は、あの関西訛りで挨拶をする。 「ほんじゃ、行くで」 真子の合図とともに演奏が始まる。 decideとよく似た曲調は、全ての曲を真子が手がけていることを思わせる。 私は思わず真子の声を頭の中で自分の声に置き換える。 私ならこう歌うのに。 ここは私もこんな風に歌うだろうな。 もう何年もマイクを手にしていないというのに、私は思わず曲を口ずさんでいた。 「次がラスト〜」 本編のラストだ。 食い入るようにステージを見つめていた私は、周りにどんな風に映ったのだろうか。 最後の曲が終わると、メンバーはステージを去った。 私と乱菊も下へと向かう。 『とりあえず、お疲れ様』 手に持っていたタオルを真子に渡す。 「何や、変な気分やなァ。昔やったら二人で汗だくになっとったんに」 『何馬鹿なこと言ってんの。まだアンコールもあるんだからね』 いつのまにか、昔のように自然に真子と会話をしていた。 アンコールは二曲。 その最後の曲が新曲だ。 「新曲、楽しみにしとけや」 そう言い残すと、真子は再びステージに戻っていった。 客席に響くアンコールの声。 その声に包まれてメンバーが再びステージに姿を現した。 一曲目が終わり、次がいよいよ本当のラスト。 「皆さん、今日は本当にありがとうございました。次がほんまのラストです。この曲はゲストギタリストを呼んでます。曲を作ったんは俺ですけど、歌詞だけはどうしてもこの人に書いてほしくてお願いしました。どうぞ〜」 ゲストギタリスト? 私はそんな話聞いていない。 横の乱菊を見ると、にっこりと微笑んでいる。 もしかして…乱菊は知っていたのだろうか。 「市丸ギンサンです。知っとる人も居ると思いますけど、LUSTYのデザイナーさんです。俺らのアクセサリーもデザインして貰いました。じゃ、行きますよ〜」 ギン!? 何で此処に!? 混乱する私を他所に、演奏が始まった。 そしてまた、私は驚いた。 「おい、ローズこの曲…」 「ふふ、真子も粋なことするよね」 聞こえてきたのは聞き覚えのある曲。 私たちのバンド、decideが最後に作った曲だ。 けれども、この曲に歌詞はない。 いや…つけられなかったのだ。 曲が完成する前に、私たちは解散してしまったから。 『嘘…』 照明のせいか、はたまた違うもののせいなのか、私の視界は既にぼやけ始めていた。 prev//next back |