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「やっと明日で一段落ね〜」

『だからって、これはないでしょ…』



此処は私の部屋。
目の前に広がるのは大量の酒瓶。



『あの〜乱菊さん、明日も朝から仕事ですよ?』

「いいのよ、前祝い!」

『祝い酒なら明日にしてよ』

「だって、たぶん明日は香奈と飲めないし!」

『どういうこと?』

「アンタはまだ知らなくていいの」



ものっすごい笑顔で乱菊は言うけれど、私には何のことかさっぱりわからなかった。
とりあえずは、明日無事に起きれることを願う。



「ほらほら、香奈も飲んで!」

『はいはい…』



乱菊にグラスを渡され、仕方なくそれに口をつける。
明日はFaustのデビューライブの日。
大切な友人の夢が叶う日。



『頭痛い…』



次の日、目を覚ますと乱菊は居なかった。
お酒に強いあの親友は、さっさと起きて自宅に戻ったのだろう。
こんな大事な日に二日酔いなんて冗談じゃない、私は痛み止めを探した。



『あった』



それは机の上に置いてあって、ご丁寧に書置きまで添えられていた。



―これ飲んでしゃきっとしなさい!



全く、誰のせいだと思っているんだか。
複雑な気持ちで親友の置いていった痛み止めを飲む。



『よし、準備するか』



いつもより念入りに化粧をして、いつもよし少しいいスーツに身を纏う。
今日はFaustのデビューライブ。
失敗は許されない。



『今日だけは許してね』



ギンから貰った指輪を久しぶりにはめる。
シンプルなデザインのため、仕事中に付けていても大丈夫だ。
今日だけは…失敗の許されない今日だけは、少しだけギンの力を借りようと思う。
自分から離れたくせに、なんとも未練がましい。
自嘲気味の笑みが零れた。



『おはようございます』



出社すると、目に入ったのは乱菊の姿。
今日は珍しく早く来ている。



『どうしたの、今日は気合い入ってるのね』

「まあね、今日は大事な日だから」



乱菊も同じ想いのようだ。
二人でほぼ全てをこなしてきたFaustのデビュー。
子供を持ったことはないけれど、まるで我が子を巣立たせるかのような気持ちだ。



「美空、松本、今日は頼んだぞ」



日番谷部長にエールを送られる。
この小さな上司にも随分と助けられたものだ。
Faustにつきっきりになっていた私たちの分の業務を肩代わりしてくれていたのは紛れもないこの上司。
本当に頭が上がらない。



『はい、部長も見に来られるんですよね?』

「当たり前だ。社長も来るらしい」



なるほど。
社運を賭けた大事なアーティストのデビューというわけか。
改めて、今日が大事な日なのだと思わされる。



『大丈夫ですよ、必ず成功させます』



乱菊を連れて開場へと向かう。
その足どりは軽い。

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