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『よし、このくらいでいいか』



新しい部屋へと移り住んだ。
前の部屋より少し狭いけど、一人で住むには十分な広さだ。



『これは…捨てられないな』



数日前まで右手にはめられていた指輪。
今ではアクセサリーケースの中だ。



『乱菊には連絡しとかないと』



あとで怒られるのは御免だと思い、親友に電話をする。
電話口から聞こえてきたのはいつもの明るい声。



「香奈、心配したのよ!ギンに休暇のこと言ってなかったんでしょ?」

『乱菊、そのことなんだけど…私引っ越したんだ』



はぁ!?と聞こえる電話口からの声。
思わず携帯から耳を離す。



「どういうこと!?ギンは知ってんの!?」

『…知らない』



とにかくすぐに行くからという乱菊に、新しい住所を教える。
会社のすぐ近くだったため、一時間もせずに乱菊がやってきた。



「さ、説明してもらおうじゃないの」



ソファに座る香奈を仁王立ちで見下ろす乱菊。



『実は…』

「…それでギンに何も言わずに出てきたってわけ?」

『うん…』



恐る恐る乱菊を見上げる。
やっぱり怒っているだろうか?
何も相談せずに勝手にこんなことをしてしまったことを。



「ほんっと馬鹿ね…」



降ってきたのは意外な言葉と、柔らかい感触だった。



『乱菊…?』

「ったくアンタは、何でもかんでも一人で悩んでんじゃないわよ。ちょっとは私のこと頼りなさい」

『ごめん…』



親友に抱きしめられて、思わず涙が零れる。



『ギンのこと信じたいけど、でもっ…』

「大丈夫よ、ギンには此処のことは言わないから。あの馬鹿が自分で何とかするまでね」



にっこりと微笑む親友を前に、涙が止まることはなかった。



『ありがとう、乱菊…』


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