>> 3 『よし、このくらいでいいか』 新しい部屋へと移り住んだ。 前の部屋より少し狭いけど、一人で住むには十分な広さだ。 『これは…捨てられないな』 数日前まで右手にはめられていた指輪。 今ではアクセサリーケースの中だ。 『乱菊には連絡しとかないと』 あとで怒られるのは御免だと思い、親友に電話をする。 電話口から聞こえてきたのはいつもの明るい声。 「香奈、心配したのよ!ギンに休暇のこと言ってなかったんでしょ?」 『乱菊、そのことなんだけど…私引っ越したんだ』 はぁ!?と聞こえる電話口からの声。 思わず携帯から耳を離す。 「どういうこと!?ギンは知ってんの!?」 『…知らない』 とにかくすぐに行くからという乱菊に、新しい住所を教える。 会社のすぐ近くだったため、一時間もせずに乱菊がやってきた。 「さ、説明してもらおうじゃないの」 ソファに座る香奈を仁王立ちで見下ろす乱菊。 『実は…』 「…それでギンに何も言わずに出てきたってわけ?」 『うん…』 恐る恐る乱菊を見上げる。 やっぱり怒っているだろうか? 何も相談せずに勝手にこんなことをしてしまったことを。 「ほんっと馬鹿ね…」 降ってきたのは意外な言葉と、柔らかい感触だった。 『乱菊…?』 「ったくアンタは、何でもかんでも一人で悩んでんじゃないわよ。ちょっとは私のこと頼りなさい」 『ごめん…』 親友に抱きしめられて、思わず涙が零れる。 『ギンのこと信じたいけど、でもっ…』 「大丈夫よ、ギンには此処のことは言わないから。あの馬鹿が自分で何とかするまでね」 にっこりと微笑む親友を前に、涙が止まることはなかった。 『ありがとう、乱菊…』 prev//next back |