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『この曲は…まあまあね』



ヘッドフォンを通して聞こえる曲に耳を傾けながら呟く。
香奈の会社が手がけているのはアーティストのプロデュースだ。
なぜ、この会社に入ったのか。
その理由はただ音楽以外に興味を持てることがなかったから、それだけだった。



「美空、今日から新しい部長が来るからな」



突然上司に声をかけられ、ヘッドフォンを外す。



『そうでしたね、すぐに準備します』



美空はさっと席を立ち、新しい上司を迎えるべく支度をする。
入れ替わりの激しいこの部署において、新しく来る上司の補佐役も香奈の仕事だ。



「ねえ香奈、新しい部長ってどんな人かしら?」



嬉々とした表情で乱菊が香奈に問う。



『さあね。噂だと童顔らしいよ?』

「童顔?ってことは可愛いのかしら〜」



全く、この親友の頭の中は一体どうなっているのだろうと思いながら、香奈は上司を迎えに行く。



『社長室に居るって言われたよな…』



視線の先には重厚そうな扉。
何度きてもここに入るのは躊躇う。
意を決して扉をノックする。



『失礼します、美空です』



どうぞと言われ中に入ると、そこに居たのは社長と背の低いともすれば少年に見えるような人物だった。



「やあ美空君、こちらが君の所の新しい上司の日番谷君だよ」



美空は自分の目を疑った。
目の前にいるこの人物が本当に新しい上司なのか。



「日番谷冬獅郎だ。よろしく頼む」

『美空香奈です。よろしくお願いします』



香奈は動揺を隠しながら、その新しい上司に頭を下げた。



『…というわけで、こちらが日番谷部長です』



香奈の紹介に部下たちも驚いている。
無理もないだろう、自分だって今も必死に平静を装っているのだから。



「あの〜、日番谷部長っておいくつなんですか?」



空気をまるで読まない乱菊の発言に、香奈は思わずやめろと言いそうになる。



「20歳だ」

「「「はぁ!?」」」



声には出さなかったものの、香奈も驚いていた。
香奈は入社して三年目の25歳。
三年かかってやっと今の地位を手に入れたのだ。
それでも、同期のなかでは一番出世している。
それなのに、目の前に居るこの上司はまだ20歳だというのだ。



『大学は…出ていないのですか?』

「出たに決まっているだろう。日本じゃないけどな」



そういうことかと妙に納得してしまった。
話を聞くと、どうやら外国で育ったらしく、向こうの学校で飛び級したそうだ。
所謂エリートというやつ。



「挨拶は以上だ。仕事に戻れ」



眉間に皺を寄せて指示を出す新しい上司に、香奈は少し安堵した。



『意外に頼れそうね』

「何か言ったか?」



いいえと返すと、香奈も自らの席に戻った。


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