>> 3 ギンに連れて来られたのは高そうなイタリアンの店。 ギンが珍しくちゃんとした服を着ていたのはこれが理由だったのかと香奈は思う。 『こんな店に来るんだったら、ちゃんとした服着て来ればよかった…』 「かまへん。香奈はそのまんまで十分や」 二人は個室に通され、ギンが何やら注文をする。 することのない香奈はギンの様子をじっと見ている。 「どないしたん?いきなりこないな店連れてきて怒っとる?」 心配そうな顔でこちらを向くギンに、香奈は慌てて否定する。 『違うよ、何か今日のギン雰囲気が違うなと思って』 「そうかァ〜?いつもと変わらんけどなァ〜」 自分の姿を改めて見るギンに、香奈は思わず笑みを零す。 『今日もかっこいいってことですよ、市丸さん』 悪戯っぽく言うと、ギンの顔が少し赤くなったような気がした。 「でな、イヅルがな…」 楽しそうに食事を進める二人。 イヅルというのは、ギンの店で働く男の子のことだ。 ギンはその子のことを気に入っているらしく、よく会話にも出てくる。 香奈は一度だけ会ったことがあるが、その時の印象は気の弱そうな子だなということだった。 『あんまりイヅルくんのこと苛めちゃだめだよ?』 「苛めとるんやない、可愛がっとるんや!」 やがて食事も終わり、デザートが運ばれてきた。 店員が部屋に入ってくると、いきなり照明が落とされた。 『何!停電!?』 香奈が驚いていると、目の前に蝋燭を立てたケーキが運ばれる。 「誕生日おめでと、香奈」 『誕…生日?』 「なんや香奈、自分の誕生日忘れとったん?」 とにかく火を消せと言われ、蝋燭に息を吹きかける。 火が消えると、再び照明が付けられた。 『そういえば、そうだったかも…。でも、なんでギンが私の誕生日知ってるの?』 「乱菊から聞いたんや。今日の昼間やってんけどな」 照れくさそうに笑うギン。 香奈はその様子を見て目頭が熱くなる。 「香奈、泣いとるん?」 『馬鹿、泣いてなんかない…』 「せや、ボクからのプレゼントあんねや。」 ギンが懐から取り出したのは、小さな箱。 それを手渡され、香奈はそっと箱を開ける。 『ピアス…』 「せや、香奈が今着けとるんもボクが作ったやつやけど、香奈には香奈のために作ったもん着けてほしかったんや」 この男はよく恥ずかしげもなくこんな言葉を言えるものだと半ば関心しながらも、香奈はそのピアスを着ける。 『似合ってる?』 「当たり前や。ボクが香奈のために作ったもんさかい」 二人は和やかな雰囲気で、店を出て家路についた。 帰り道、ギンが香奈にそっと手を差し出した。 香奈は迷うことなくその手をとった。 ぎゅっと握り締められたその手から伝わる温もりは、幼い頃に感じた温かさと同じだと香奈は感じていた。 『ギン…ありがとね』 「ボクのほうこそ、おおきに」 prev//next back |