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「具合でも悪いん?」



再びキッチンに入ってきて、香奈を気遣うギン。
香奈は動揺を悟られないように手を動かす。



『何でもないよ。ただ、この声なんか聞いたことあるなと思って』

「あァ、この声香奈によう似とるやろ?ボクも最初聞いた時驚いてん。でも、ボクはこの声好きやからこのバンド好きになったんかもしれんなァ〜」



この声、歌っているのは自分だと危うく言いそうになったのを抑える香奈。
歌っているのは紛れもなく自分。
そして、この曲も歌詞も作ったのは真子なのだ。



「このバンド解散した時は残念やったなァ〜。なんや、ギターはまだ他のとこで活動しとるいう噂やけど、他はわからんのやて」



そっか…と答えるのが精一杯で、香奈は目の前の料理に集中しようと努めた。



『できたよ』



料理が完成すると、香奈は仕事に取り掛かっていたギンを呼んだ。



「おお〜久しぶりの手料理や!」

『そんなこと言って、作ってくれる子なんていっぱいいるでしょ?』



香奈の中ではギン=遊び人というイメージがついていたため、思ったままを口にした。



「そんなことないで?ボク彼女おらへんし」



香奈は冗談で言ったつもりだったのだが、ギンは少し落ち込んでいる様子だった。



『冗談よ。彼女いるんなら私を家に上げたりしないでしょ?』



勘違いされたら困るしねと笑いながら食事を始める香奈。
ギンはその様子をじっと見ている。



「香奈、たまにでええからこうやってご飯作ってくれへん?一人で食べるの寂しいんや」

『別にいいよ?その代わり、ギンもたまには作ってよね』



香奈の返事に満足したのか、ギンも食事を始めた。



「ごちそうさん、美味かったなァ〜」



この細い体のどこにそんなに入るのだろうと思うような量を平らげたギンは、満足そうに食器をキッチンに運ぶ。



『こんなのでよければいつでも作るよ』



久しぶりに人のために料理を作ったなと思いながら、同じく食事を終えた香奈もキッチンへと向かう。



「せや香奈、あれできたで」

『あれ?』



何か頼みごとでもしてただろうかと思い、香奈は首を傾げる。



「何や、忘れてしもたん?手出してみ」



ギンに言われて右手を差し出すと、すっと薬指に何かが触れた気がした。



『あ、あの時の…』

「せや。ボクが初めて人のために作った指輪」



ギンに再会した次の日、サイズを測られた時のか…と思っている香奈の頭に、ある疑問が浮かんだ。



『今、ギン初めてって…』

「初めてなんや。ボクが人のためにアクセサリー作ったんは。今までは自分が着けたい思うもんだけを作っとったんよ」



照れくさそうに笑うギンに、香奈は心の奥が熱くなるのを感じた。



『ありがとう』



運命なんてあるのだろうか。
もしあるとしたなら…繋がれた糸は赤なのかもしれない。

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