>> 2 「そうか…仕方がない、お前らはしばらくFaustに専念しろ」 「はぁ〜い!」 若干の怒りを含んだ顔で乱菊を見る香奈を他所に、夜は更けていった。 それからというもの、香奈はFaustのデビューの準備に奔走していた。 なるべくメンバーに会わないでいいように、メンバーとの打ち合わせはほとんど乱菊に任せていた。 「香奈、今日一緒に行けなくなっちゃった!」 手を合わせる乱菊に香奈は溜息をつく。 『いいよ、Faustでしょ?』 「うん、本当は香奈も連れて来いって真子に言われてるんだけど…行かないんでしょ?」 『わかってるでしょ?』 香奈は仕事以外では決して真子に会おうとはしなかった。 今日のような飲み会には一度も顔を出していなかった。 「全く…過去だって言ってるくせに」 香奈の気持ちを汲んでか、乱菊も無理に誘うことはなかった。 『久しぶりに料理でもするかな…』 会社からの帰り道、普段はしない料理をしようと思い立ち近所のスーパーに立ち寄る。 何を作ろうかと悩んでいると、ふいに後ろから声をかけられた。 「香奈!」 振り向くと、ギンがこちらに手を振っていた。 『ギン、夕飯の買い物?』 「そんなところや。出来合いのもん買うだけやけどな」 香奈と同じく普段は料理をしないらしいギン。 香奈はあることを思い立った。 『良かったら、何か作ってあげようか?一人分作るのも大変だし』 「ええの?香奈の手料理食べれるやなんて嬉しいわァ〜」 素直に喜んでくれるギンに思わず香奈の頬が緩む。 二人は買い物を済ませるとギンの部屋へと向かった。 「何作ってくれるん?」 料理を始めた香奈の後ろに立ち、ギンが覗き込む。 『カレー。これなら此処に置いておけばギンがまた食べれるでしょ?』 「ほんまに!?香奈は優しいなァ〜」 終わるまで向こうに行っててと言われ、ギンはリビングに戻る。 そこでふとあるCDを手に取る。 「音楽かけてもええ?」 『いいよー』 香奈にいいと言われ、ギンはそのCDをデッキに入れる。 「この曲な、ボクが一番好きな曲なんや」 再生ボタンを押して流れてきたのは… 「このバンドな、ボクが東京出てきて友達に聞かせてもろうたんや。予定が合わんで一度もライブには行けへんかってんけど…」 残念やったなァ〜と言うギンの声も耳に入らず、香奈は野菜を切っていた包丁を握り締めたまま立ち尽くしていた。 「名前はdecideいうんや。なんでも、そこのボーカルの女の子がえらい可愛いかったらしゅうてな…って香奈?」 prev//next back |