>> 3 しかし、来るべくして終わりは訪れた。 香奈たちが四年になり、卒業を迎えたのだ。 メンバーは皆同じ大学の学生だった。 拳西は教師になるために地元へ帰り、ローズは研究を続けるために大学に残ることになっていた。 そして香奈はレコード会社の内定をもらっていた。 『真子はどうするの?就活してなかったけど…』 皆が卒業後の進路に向けて活動する中、真子は一人、ギターを弾き続けるだけだった。 香奈はそんな恋人の姿に不安を抱いていた。 「香奈、俺プロになろう思ってんねん」 『プロ!?』 香奈が驚くのも無理はなかった。 今までdecideとして活動していた間に何度か誘いを受けたのだが、真子がずっと断っていたのだ。 『だって、真子はプロになる気はないって…』 「それはdecideとしてや。皆には目標があった。それを諦めさすんは嫌やってん」 真子がずっとプロ入りを断っていた理由。 それは香奈たちメンバーのことを思ってだった。 『でも、今からまた一からメンバー探してって大変でしょ?』 「大丈夫や。せやけど香奈、待っててくれへん?」 『待つって…』 香奈は真子のほうを見た。 真子はいつものおちゃらけた表情が嘘のように真面目な顔をして、香奈に言った。 「俺がちゃんと音楽で食っていけるようになるまで、や。そしたら香奈迎えに行く」 卒業式の次の日、decideの解散ライブの終わった夜のことだった。 そして、真子は香奈の前から姿を消した。 『で、今に至るってわけ。アイツは私の男嫌いの元凶ね』 一通り話し終えた香奈は煙草に火をつける。 乱菊は今聞いた話が信じられないといったような表情をしている。 「アンタ、まさかそれで煙草を?」 『いや、これは昔から。アイツが吸ってたのを貰ったのが最初』 そう言って香奈は恨めしそうに煙草の箱を見る。 「decideって私も知ってるわよ!?まさかあのボーカルがアンタだったなんてねえ…」 『昔の話だって言ってるじゃない。今はもう歌なんて歌えないよ…歌う気もないし。誰にも言わないでよ?』 「はいは〜い!」 『昔の話なんだから…』 そう言った香奈の顔は憂いを含んでいた。 本当は、あの時ついていきたかった。 “ずっと傍に居る”そう言ってくれたあの人に。 まだ幼すぎて別れを選ばざるをえなかったあの少年と似た、関西訛りで紡がれたその言葉を信じたかった。 でもそれは過去……再会は遅すぎた。 prev//next back |