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そして午後、約束の時間がやってきた。
香奈は乱菊と待ち合わせ場所である喫茶店へと少し早めに来ている。



「ちょっと香奈、これから先方に会うってのに煙草はやめなさいよ!」



席に着くなり煙草に火をつけた香奈に乱菊は声を荒げる。
しかし、香奈は平然とそれに返す。



『いいの。別に隠す必要もないしね。ほら、来たみたい』



香奈が煙草の先で示したほうを見ると、そこには金髪の青年が一人で立っていた。



「どーも、Faustのギターの平子真子です。ちなみにリーダーですー」



ぺこりとお辞儀をする真子に乱菊は慌てて席を立つ。
香奈も乱菊にせかされて席を立つ。



「始めまして、私松本乱菊と申します。ほら、アンタも挨拶!」



乱菊に背中を叩かれて、香奈も渋々口を開く。



『美空香奈です。久しぶりね、真子』



乱菊は香奈の口から出た言葉に驚く。
一方の香奈はというと、真子のほうをみて明らかに作り笑いともとれる笑顔を浮かべている。



『どうしたの、久しぶりに会った元カノにでも驚いてる?まあ、自分が棄てた女が突然現れたらびっくりするか〜』



くすくすと笑う香奈に乱菊は寒気を感じた。
明らかにいつもと違う雰囲気。
香奈がこの話を引き受けようとしなかった理由はこれだったのかと漸く気づいたのだった。



「ちょっと香奈!元カノってもしかして…」

「そうや。俺が香奈の元カレや」



それまで黙っていた真子が漸く口を開いた。



「せやけど驚いたわ。遠くから見てて香奈に似とるやっちゃなァ思うてたんや。まさか本人やったなんてなァ〜」



へらへらと笑う真子に香奈はなおも冷たい視線を送る。



『それはどうも。気づいてたんならこっちに来ないで帰ればよかったのに』

「それは出来ん話やな。だいたい、お宅らが呼んだんやろ?」



このままでは埒が明かないと思い、乱菊が二人を無理やり席に座らせる。



「で、えーっと今回はですね…」

「俺らを引き入れたいんやろ?」



乱菊が何とか仕事の話をしようと口を開くと、先に真子が話し始めた。



「構わんで。俺ら香奈んとこやったらいったるで」

「本当ですか!?」



喜びの声を上げる乱菊とは対照的に、香奈は相変わらず冷めたような表情をしている。



「よかったわね、香奈!」

『別に…』

「なんや、俺と仕事すんのそんなに嫌か?」



真子が目の前に座る香奈の顔を覗き込む。



『嫌に決まってるでしょうが!だいたい、そっちはどうなのよ、嫌じゃないの?』

「アホか、嫌やったら断るっちゅうねん」



声を荒げる香奈に、真子は呆れたように言った。

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