>> 3 ギンに案内されて店の奥に入る美空。 コーヒーを手にギンは笑う。 「香奈は気付いとるとばっかり思うとったわ」 そう言って指差す先には香奈の耳に光るピアス。 香奈はこのブランドのアクセサリーをいくつか持っていたのだ。 『バンド名聞いた時、メンバーが好きなのかなとは思ったけどさ』 「でも嬉しいわァ〜香奈がボクがデザインしたん着けてくれとるなんて」 香奈は目の前にいる男をじっと見る。 整った顔立ちにすらりと伸びた手足。 おまけに人気ブランドのデザイナーとくれば、女はいくらでも寄ってくるだろう。 「ボクの顔に何か付いとる?」 香奈の視線に気付き、自らの顔をぺたぺたと触る市丸。 その様子がおかしくて、香奈は思わず吹き出してしまう。 「なんやの、人の顔見て…」 『ごめん、ギンってモテるんだろうなと思って』 ふて腐れるギンに香奈は先程思ったことを口にする。 「まあ、モテへんことはないよ」 『うわっ、自慢?』 「事実を言うたまでや。そんなん言うて香奈こそモテるやろ?」 こないに綺麗になって…と香奈の頬に手をやるギンに、香奈は思わずドキッとする。 『まあ、モテないことはないけどね』 ギンの手を払いのけ、香奈はニヤリと笑みを浮かべる。 「そんならお互い様や。香奈、手貸してみ?」 ギンに言われて右手を差し出すと、ギンは何やら測りだした。 『何か作ってくれるの?』 「せや。香奈にプレゼントしたろ思うて」 『もう…いろんな女の子にこうやってプレゼントしてるわけね?』 クスクス笑いながら、香奈はギンを見る。 しかし、ギンの表情は暗い。 「香奈…………や…」 『何か言った?』 よく聞き取れなかった香奈はギンに聞き返す。 「何でもない。よし、サイズはわかったし、飯でも行こか」 ギンに言われ、少し遅い昼食をとった二人。 次の日は仕事で朝早いため、そのあと香奈は家に帰った。 「香奈、また部屋行ってもええ?」 帰り際、ギンが香奈にぽつりと尋ねた。 『いいよ。どうせ他に来るような人もいないしね』 別段断る理由もなかった香奈は快く了承した。 『じゃあまたね』 ギンの部屋の一つ上の階に済む香奈は、エレベーターで別れを告げた。 prev//next back |