京の冬は寒い。
故郷である江戸から離れてもう何年経つだろうか。
大好きな兄が京へ向かうと聞いて、無理矢理ついてきてこうして今私は新選組の隊士となっている。



『歳さーん、そろそろ寝ないと風邪ひきますよ?』

「俺だって休みたいのは山々だが、仕事が残ってんだ。お前はもう寝ろ」



泣く子も黙る新選組の鬼副長の土方さんは、今日も今日とて遅くまで仕事に励んでいる。
忙しいのはわかるけれど、貴方が寝込みでもしたら兄が悲しみます。



『御断りします。兄上に悲しい思いをさせたくありませんから』

「ったく、お前は本当に近藤さんのことが好きだな」

『歳さんに言われたくありませんー』



そう、私が兄上と呼ぶその人は新選組の局長である近藤勇。
しかしながら私たちは血のつながった兄妹ではない。
まだ赤子だった頃に捨てられていた私を拾ってくれた、ただそれだけだ。



「わかったよ、今日はもう休む」

『聞きわけのいい子は好きですよ』



黙れ、と歳さんに頭を小突かれたけれどいつものことなので気にしない。
私は試衛館の皆が大好きだった。
物心ついた頃から一緒に稽古に励み、女としてではなく一人の仲間として私のことを見てくれる皆のことが。
それでも一人だけ、私を女として見てくれる人がいた。



「玲はどうすんだ、部屋に戻るのか?」

『歳さんがいいならご一緒しますよ』



それがこの人、土方歳三だ。
いつからか、だなんてもう覚えていない。
それでも気づいた時にはいつも隣にこの人がいた。
総司に苛められて泣いている私を慰めてくれて、剣の腕がなかなか上達しなかった私に稽古をつけてくれた。



「駄目なわけねえだろ」

『そうですね』



いつだってこの人は私のことを考えてくれている。
京に来て新選組の副長となった今でも。



『ねえ、歳さん』

「なんだ」

『明日は一緒に雪だるまでも作りましょう』



布団に包まってなんてことない会話をする。
こんな一時が私にとってはかけがえのないものなんだ。



「玲は寒いの嫌いだろ」

『いいんです、明日は雪が降るそうなので』

「余計に寒いじゃねえか」



もう寝るぞ、と私の頭を撫でた歳さんはすぐに寝息を立て始めた。
きっと明日は朝一番に庭に出ることになるだろう。
この人はきっと私のお願いを聞いてくれる。
はらり、はらりと雪が舞う中で、私たちは一時の幸せを噛みしめるんだ。



END


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