『今日は天気がいいですね』

「そうだな。花見日和だ」



そう言って土方さんは桜の木を見上げた。
此処は蝦夷。
私たちの戦いは終わった。
今は土方さんと二人、静かな毎日を送っている。



「桜は綺麗だな」

『はい。私の一番好きな花です』



貴方に似ているから、と続けようとしたところで土方さんと目が合った。
綺麗に微笑む姿の背景には桜。
やはり、この花は彼に似ていると思う。



「どうかしたのか?」



不安げに私の顔を覗き込んでくる彼に気恥ずかしさを感じて目を逸らせば、頭を掴まれて強制的に再び目を合わさせられた。



「言いたいことがあんならはっきり言え」

『いえ、ただ…』

「何だ?」

『土方さんが桜のようで綺麗だなって』



次の瞬間、ふわりと暖かいものに包まれた。
顔を上げれば、いつものように微笑んだ土方さんの顔。
以前のように眉間に皺を寄せて考え込むことはなくなったその顔。
嬉しくて、私も頬が緩む。



「俺は玲が好きだ。一生添い遂げてえと思ってる」

『ありがとうございます』



改めて言われると、なんだか照れてしまう。
それでも、見上げる土方さんの顔は真剣そのものだ。



「でもな、俺の一生は残り少ねえんだ」



知っている。
羅刹となった土方さんの寿命は、いつその終わりを迎えてもおかしくないのだ。
できることなら私たちがお爺さん、お婆さんになるまで一緒に居たい。
そう願うのは欲張りなのだろうか。



『知ってます。それでも私は…』



土方さんと、今この時を一緒に感じていたい。
せめてこの瞬間だけは、貴方と共に在りたい。



「すまないな、玲には寂しい思いをさせちまう」

『いいえ、これが私の選んだ道ですから』

「そうか…それなら、一つだけ頼みを聞いてくれるか?」

『何ですか?』



―最後、は…最後の瞬間だけはお前の笑顔を見ていたいんだ―



あれから何年経ったのだろうか。
私は今、北海道と名称の変わった蝦夷に一人居る。
見上げるのはあの時と変わらない桜の木。
この桜の木だけは、あの時と何も変わらずにあの人のように綺麗に咲き誇っている。



『今日も花見日和ですよ、歳三さん…』



初めてあの人を目にした時、まるで桜のような人だと思った。
綺麗に咲き誇るのにどこか儚げなその姿。
その通りに、あの人は綺麗に咲き誇って美しく散っていった。



『もうすぐです。もうじき、私も貴方の元に』



―私も一つ、願いを聞いてもらってもいいですか?―



『また、必ず私を見つけて下さいね』



最後、は貴方の元に…




END


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