壊れた玩具。 散らばるガラクタ。 ガラクタはそう、処分。 『ああ綺麗、本当に綺麗』 「おい、お前何やってんだ」 振り向くと浅葱色の羽織を着た人がいた。 新選組か、なんて思っていると腕を掴まれた。 「これお前がやったのか?」 『ああ、そうだよ。私の事男だと思って迫って来た輩を成敗してやったんだ』 「男って、お前女なのか?」 『ああ、私は美空玲。アンタは?』 「俺は新選組十番組組長、原田左之助だ」 それが左之助との出会いだった。 袴を真っ赤に染めて血溜りの上で笑っていた私は、さぞかし気味が悪かっただろう。 それでも、左之助は眉間に皺を寄せながら私の手を引いた。 『何するんだ、離せ』 「そんな格好で街をうろつく気かよ。すぐそこに屯所があるから着替えろ」 『離せと言っている』 「いいから来い、それともまた男に間違われて襲われてえのか」 抵抗する私だったが、さすがに男と女では力が違う。 あっさりと左之助の言葉通りに新選組の屯所に連れて来られた。 「左之、ソイツは何者だ」 「土方さん、近くで浪士にやられたみてえなんで着替えさせてやってもいいか?」 「構わねえが……」 土方さんと呼ばれた男は何かを思案するような目で私を見た。 恐らく私が女子だと気づいているのだろう。 「玲、着替えたか?」 『ああ』 襖を開けた左之助は思わず口に手をやった。 笑いを必死でこらえていることなどすぐにわかるというのに。 『仕方ないだろう、私とお前とでは背丈が違いすぎる』 「ま、家に帰るまでならそれでいいだろ」 家まで送る、と申し出た左之助はいいと言っても聞かず、仕方なく私が住処としている場所まで連れて行った。 私が生活をしているのは街外れにある小さな小屋。 家を出てから住むところがなかった私がやっと見つけた場所だ。 「お前、一人なのか?」 『ああ、家族は捨てた……正確には捨てられたのだがな』 「そうか」 『何もお前が気に病むことはないだろう、もう行け』 左之助を追い返し、狭い部屋の中で座禅を組む。 私の一日のほとんどはこうして過ごしている。 むやみに外に出るのは好かない。 一度剣を握れば、私自身にも止めることのできない衝動が湧きあがる。 気付いた時にはいつも血溜りの上で悦に浸っているのだ。 『気味が悪いな』 我ながらそう思う。 一度、屋敷の者を殺めてしまった。 まだ幼い頃、私のことを好いていなかった女中が私のことを殺そうとした。 気付いた時には私の手に剣が握られていて、その女中は見るも無残な姿になっていた。 それから数年後、私は捨てられたのだ。 私はガラクタ、壊れた人形なのだ。 殺人の道具として使われる他に生きる道などない。 → back |