新選組に女? 冗談じゃない。 使えない奴はここには必要ないんだ。 「君、余計なことしたら殺すよ?」 だから、いきなり屯所にやってきた女に僕は刀を向けた。 街娘の格好をしてるからって、本当にただの女じゃないとは言い切れない。 もしかしたら近藤さんの命を狙っているのかもしれないし。 「僕、あの子嫌い」 「そうか?腕も立つし、なかなか気立ての良い奴だと思うけどな」 左之さんはそう言うけど、僕にはどうもあの子を信用することができない。 皆が信じ切ってるなら、僕だけでもあの子を見張っていよう、そう思った。 あの子が屯所に来てもう随分と経つ。 おかしな様子は見受けられない。 変わっていることといえば、いつもやたらと土方さんのほうに視線を向けていること。 なんだか気に食わない。 「土方さん、あの子うちの組に入れたいんですけど」 「あの子って、玲か?」 「そうですけど」 彼女は今は特定の隊に所属していない。 観察方の仕事をすることもあるし、巡察に行くこともある。 それは彼女が女であることから、幹部で話し合って決めた処遇だ。 「でも総司、お前はアイツのこと嫌いなんじゃなかったのか?」 「もちろん嫌いですよ。でも嫌なんです」 「何がだ」 そう問われれば、何と答えたらいいのかわからない。 他の幹部と仲良さそうにじゃれあっているところを見るのとか、彼女に対して決して良い態度をとっているわけじゃない僕にも変わらず笑顔を向けてくることとか、時折土方さんを切ない表情で見ていることとか。 「全部です。あの子の考えていることが僕にはよくわからないんですよ。なんでそこまでして新選組にこだわるのか、こんないつ死ぬかもわからない仕事をしなくてもいいのに」 「お前、この前のこと…」 この前のこととは、彼女が初めて任務中に怪我をした時のことだ。 肩から胸にかけて切り傷を負ったらしい。 幸い傷は浅く、痕は残るが特に支障はないと聞いた。 「何で彼女にあんな危険な任務をさせたんですか?あの日は僕も手が空いていたはずですよ」 「仕方ねえだろ、玲が休んでるお前に行かせるなって言って聞かなかったんだから」 僕の所為だ。 僕が行けば、誰も怪我なんてしなくてよかったのに。 あの子がもし任務中に命を落としてしまったら、きっと皆は悲しむだろう。 そして、僕は彼女の素情を暴くことができなくなる。 「とにかく、彼女は僕の隊に入れます」 「総司、お前」 「お願いしますよ、副長」 後は彼女の返事を待つだけ。 土方さんの頼みを彼女が断るはずもないことは、なんとなくわかる。 『お願いします、沖田さん』 沖田さん、と呼ばれてなんだか妙な気分になった。 僕に向けられているのは皆に向けるのと同じ笑顔で、横にいる土方さんに向けられるのは切ない表情。 なんだろう、胸の辺りがもやもやする。 僕がその正体に気づくのはもっと先のこと。 END ← back |