「あれえー何二人で話してんの?玲ちゃんだっけ、イヴに一人なんて寂しいなあ」 「総司!」 それから仕事のことや趣味のこと、他愛もない話をしていた俺達の間に総司が割り込んできた。 珍しく酔っているようで、彼女の方を抱く。 慌ててその手を払いのければ、総司がほのかに紅くなった目で俺を睨んだ。 『ふふ、それもそうですね』 一瞬張りつめた空気は彼女の一言によって和らいだ。 総司は俺から目を逸らし、彼女の隣に座る。 「一くんだけ抜け駆けなんてずるいよ。玲ちゃん、僕と飲もう?」 そう言って彼女の空いたグラスを取り上げて新しいグラスを置いた。 人懐っこい総司に彼女も緊張がほぐれてきたようで、ところどころで笑い声を上げている。 一人蚊帳の外となった俺は目の前のグラスを見つめていた。 『斎藤さん、どうしました?』 気がつけば総司は皆のところへと戻り、彼女が俺の顔を覗き込んでいた。 「な、なんでもない。あんたもあっちに行かなくていいのか?」 『私が向こうに行ったら斎藤さんが一人になっちゃうじゃないですか』 クスクスと笑う彼女を見て、少しだけ、ほんの少しだけ自惚れてもいいかと思った。 何より、自分を気にかけてくれていることが嬉しかった。 『あ、斎藤さんが一人で飲みたいって言うなら向こうに行きますよ』 「いや、此処にいてくれ」 思わず自分の口から出た言葉に驚く。 俺は自分で思うより酒に弱いのかもしれない。 じゃあ此処にいます、と彼女はまた微笑んだ。 それからしばらくして、皆が帰り支度を始めた。 店の外に出ると、あの三人が次の店に行く、と息巻いていた。 「玲ちゃんも一緒に行こうぜ!あんまり話せなかったし」 『ありがとうございます。でも、私はここで』 完全に酔っぱらっている新八に半ば絡まれながらも、彼女は笑顔のままだった。 断られて不貞腐れる新八を、左之と平助が引っ張って行った。 「じゃ、玲、また一緒に飲もうぜ!」 『はい、喜んで!』 皆が散り散りになり、残ったのは俺と彼女と土方さんだけになった。 「玲、今日はすまねえな。斎藤と方角一緒だろ、送ってもらえ」 『そんな、悪いです』 「いいんだよ、どうせこの後予定があるわけでもあるまいし。な、斎藤」 そう言って土方さんは俺のほうを見た。 小さく頷くと、俺は彼女の手を引いた。 「構わん。行くぞ」 『え、あ……土方さん、今日はありがとうございました!』 土方さんに軽く会釈をすると、彼女は赤らんだ顔で俺を見た。 『斎藤さん、あの…手……』 そう言われて自分の手を見れば、彼女の手をしっかりと握っていて、俺は思わずその手を離した。 「すまない!」 『あ、いえ、気にしないでください』 それからなんとなく気まずい雰囲気の中、俺達は歩いた。 ←→ back |