『もしかして、今日は貸し切りですか……?』



入って来たのは俺と同年代くらいの女性だった。
様子から察するに、この店の常連のようだ。



「玲ちゃん、貸し切りってわけじゃないけど…」



店のマスターは気まずそうに店内をぐるりと見回す。
普段なら落ち着いた店なのだろうが、今日は騒がしい。
貸し切りと思われても仕方がないだろう。



「君さえよければ、一緒にどうだい?」



彼女に気づいた近藤さんが歩み寄り、彼女を店内へと促した。
彼女は気まずそうにしながらも笑顔でありがとうございますと言った。



『土方さんじゃないですか』

「おう、久しぶりだな」



カウンターに座った彼女は、俺の隣に座っていた土方さんに気づき微笑む。
どうやらこの店は土方さんの行きつけらしい。
顔馴染みを見つけて安心したのか、彼女の表情は柔らかくなった。



『今日いらしてる皆さんは土方さんのお友達なんですね』

「まあ、そんなもんだ。騒がしくて悪いな」

『いえ、皆さん楽しそうなので、私まで楽しくなってきます』



くすりと笑った彼女の横顔を見た瞬間、胸の奥が鷲掴みされたような感覚に陥った。
今までに感じたことのない感覚に戸惑っていると、土方さんが心配そうな顔で俺を見た。



「どうした、斎藤。具合でも悪いのか?」

「いえ、なんでもありません」

『そちらの方は斎藤さんとおっしゃるんですか?はじめまして、美空玲です』



今度の彼女の笑顔は俺に向けられたものだった。
顔に熱が集まるのがわかり、店内が薄暗いことに感謝した。



「確か玲は斎藤と同じ歳ぐれえだな。仲良くしてやってくれ」

『そうなんですか!よろしくお願いしますね、斎藤さん』

「あ、ああ……」

「じゃ、俺は向こうに行ってくる」



すると、俺の肩をぽんと叩いて土方さんが席を立った。
去り際に俺の顔を見てにやりとしたのは気のせいだろうか。



『本当に皆さんは仲がいいんですね』



俺を除いた皆が騒いでいるのを見て、彼女は嬉しそうに言った。



「仲がいい、というか気ごころが知れているというか、よくわからんな」

『でも、こうして皆でクリスマスパーティーなんて羨ましいです』



そう言った彼女は少しだけ俯いた。
俺が踏み込んではいけない事情があるのだろうか。



「あんたも仲間に入ればいい」

『私も、ですか?』

「現にこうして同じ空間にいる」



俯いていた彼女は驚いたように俺を見た。
そしてクスッと笑ってそうですねと小さく呟いた。
少しは彼女を元気づけることができたのかも知れないと思うと、柄にもなく心が躍る思いだった。


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