嫌いなものなんてあり過ぎるほどにある。 例えば夏の焼けつくような日差し。 例えば数学の問題が解けない時のイライラ。 そして隣を歩く男もまた、嫌いなものの一つに分類される。 「夜、お前そんな仏頂面してんなよな」 「元からこんな顔なんだけど」 どうしてこの状況が作り上げられたのか。 それは、高校に入ってできた友人の幼馴染がコイツだったから。 それは、中学の時からつるんでいた友人がコイツと仲良くなったから。 それは、家が同じ方向だから。 「そんなに俺と帰るのが嫌なのかよ」 「別に」 「あーそうですか」 学校の帰り道、寄り道をした。 そしたら偶然啓吾と水色に会った。 そしてコイツも一緒に居た。 「夜って水色達とは普通に笑って話してるのにな」 ついでに言うならば、なんでコイツが私のことを夜と呼ぶのかわからない。 大方、啓吾と水色がそう呼んでたからという答えなんだろうが、だからといって私とコイツが私と水色達のように仲良しなわけではない。 啓吾が煩いから遊びに付き合えば、いつもコイツがいる。 ただそれだけのこと。 「夜?」 「何」 「……何でもない」 本当はわかっている。 どんなに理屈を並べてみたってそれは所謂屁理屈でしかなくって、それがどんなに子供じみたことなのかってことくらい。 「黒崎」 「何だよ」 「……何でもない」 変な奴。 そう言って隣を歩く男――黒崎一護は笑った。 いつだったか、たつきに言われた。 アンタは一護を意識しすぎだって。 そんなこと言われなくたってわかってる。 可愛くないことくらい重々承知だ。 「私、こっちだから」 「送ってく」 「いいよ」 「もう遅いんだ、大人しく送られとけ」 不自然なほどに自然な動きで、黒崎が私の手を取った。 突然のことに頭がついていかない。 ぎこちなく握り返してみれば、彼の手は温かかった。 「夜」 「何?」 「一護って呼べよ」 「……考えとく」 例えば夏の暑さはやがて来る秋の前触れ。 例えば数学の問題が解けたときのあの爽快感。 「一護」 「考えとくんじゃなかったのかよ」 嫌いという感情はは好きへの過渡期にあるようなものなのかもしれない。 今がまさに、変化の瞬間。 「私、アンタの事好きかもしんない」 「バーカ、そんなのとっくの昔に気づいてんだよ」 翌日、皆に報告した。 誰一人として驚かなかった。 気付いてなかったのは私だけなのか。 悔しいけれど、なんだかとても幸せだと感じた。 END back |