嫌い、きらい、キライ。 視えてるのか視えてないのかわかんないあの瞳で私を捉えて、毎日のように愛の言葉を堂々と言い放つアイツが。 「夜、ボクキミのこと好きなんや」 「さっきも聞いた、しつこいよ」 「ええやないの、好きなんやから」 「仕事の邪魔。イヅルにまた怒られるよ」 「ええねん、ボク隊長さんやから」 副隊長であるイヅルは今席を外していて、執務室には私とこの隊長の二人だけ。 助けてくれる人はいない。 「なあ、そろそろ素直になってもええんと違う?」 「素直になってる」 「嘘や。ほんまはボクの事好きな癖に」 「隊長なんか嫌い」 私は市丸隊長が嫌い。 嫌いすぎてどうしようもないくらいに嫌い。 「困ったなあ、ボクはこないに夜のこと好きなのに」 「私には関係ない」 どうみても困っているようには見えない顔をしながら、隊長はどこかへ行った。 入れ違いに入って来たのはイヅル。 「隊長また拗ねちゃったみたいですね」 「私の所為じゃないよ」 「知ってますよ」 「どうせまた他の隊の子のところに行くんでしょ」 「隊長もそろそろ止めればいいのに……」 今頃彼は何処にいるんだろう。 四番隊かな、五番隊かな。 何処に居ようと私には関係ない。 何処で誰を口説いていようと私には関係ない。 「ごめんね、イヅル」 「いいえ、構いませんよ」 昔の彼はこんなんじゃなかったのに。 私達がまだ恋人だった頃はこんなんじゃなかったのに。 「夜、別れよ」 「え……何で……」 「ボク耐えられへんわ、夜が他の男と話してるん見るの」 あっさりと、まるで最初から何もなかったかのように、私達は終わった。 それなのに彼は毎日私に愛の言葉を囁く。 私以外にも、愛の言葉を囁く。 「夜、愛しとる」 「あっそ」 「世界中の誰よりも」 「嘘吐き」 「嘘なんかやあらへん」 戻って来た彼の唇には少し紅が付いていて、纏う香りは甘い。 そんな唇で私にそんなことを言わないで。 そんな香りを纏ったままで私に近づかないで。 「私は隊長が大嫌いですよ」 でも、市丸ギンは好き。 小さく呟けば、珍しく開かれた彼の瞳が私を捉えた。 「やっと言ってくれた」 隊長、って呼ばれんの嫌いなんや。 そう言って市丸ギンは私を抱きしめた。 END back |