頬に添えられる恋次の手。
大きくて温かくて、この手が大好きだ。



「夜、好きだ」
「私も」



何度繰り返してきたかわからないこの言葉。
それも今日で最後だ。



「明日、現世に行くんでしょ?」
「ああ、ルキアの捕縛だ」
「ルキアちゃん、軽い罪で済むといいね」



俯く恋次。
ごめんね、ルキアちゃんは極刑。
私達のために犠牲になってもらう。



「そうだな」
「大丈夫?ちゃんと努めは果たせる?」
「大丈夫だ。辛えのは朽木隊長も一緒だ」
「そうだね」



絞り出したような恋次の声は、強く悲しく。
普通なら恋人である私は心を締め付けられるんだろうけど、生憎私はそんなヤワな心は持ち合わせていない。



「妬くなよ?」
「妬かないよ。恋次がルキアちゃんのこと家族みたいに思ってるのは知ってる」



出会ったのは五番隊。
当時席官だった私に恋次が告白してきて、私はあの人の指示でそれを受けた。
それでも今となっては、こんなにも貴方が愛しい。



「長く居すぎたのかな……」
「何か言ったか?」
「ううん、恋次が心配になっただけ」



私を抱く手が強まる。
この人はこんなにも私を愛してくれているのに、私は裏切る。
貴方を残して、この世界にさよならするんだ。



「お別れは済んだん?」
「うん、たぶん」
「たぶんってなんやの」



ケラケラと笑うその人。
私と共にこの世界を裏切る人。
その様子を見るのは憎きあの人。



「阿散井君も不憫だね」
「恋次は大丈夫、ルキアちゃんが居るから」



彼はきっと私を殺す。
対峙したなら、迷わず刀を抜いてくれる。



「月闇、君は彼を愛していたのか?」
「たぶんね」



要君に聞かれて曖昧に答える。
明確な答えなんてきっとないから。



「さあ、そろそろ時間かな」



その一言で私たちは散り散りになった。
再び集まったのは双極の丘。
地に伏せる愛しい人に、唇だけで言葉を紡いだ。



――愛してる、さよなら



届いていたのか否か、今となってはわからない。
ただ一つわかるのは、私の命はもうすぐ尽きるということ。
結局負けちゃった。
この百年間は何だったのかななんて思い返してみる。
思い浮かぶのは真っ赤な色だけだった。



「恋次……ありがとう」



最後に発した言葉は尸魂界の濃い霊子の中に溶けていった。



END



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