「あー、俺ちょっと夏休み居ねえわ」
「そっか、帰ってきたら連絡ちょうだいね」



それはほんの二週間ほど前の終業式の日。
彼氏である黒崎一護に夏休みどこかに出かけようと言えば断られた。
そして今日、私は浦原商店という駄菓子屋に居る。



「黒崎サンも相変わらず霊圧探査においては鈍いっスね」
「ま、仕方ないでしょ。死神になったのも最近ですし」
「こんなに近くにいても気付かないなんて」



苦笑いをする浦原さんを見れば、私の口角も上がる。
去る四月、現世に派遣された朽木ルキアのサポートとして私は空座町に派遣された。
所属するのは十二番隊。



「それが一護ですから」



空座町に入学した私はごくごく普通の女子高生として生活していた。
人並みに恋もして、その相手がたまたま朽木ルキアから霊力を譲渡された。



「貴女も運が悪いっスね」
「それは昔からですから」



現世に来て頼ったのは元隊長。
彼は思いのほか私を歓迎してくれた。
昔より席次が上がって、今は三席。
技局からの誘いを断って現隊長の怒りを買い、こうして現世に飛ばされた。



「戻るんですか?」
「もちろん。一護の驚く顔が見てみたいですし」
「貴女も人が悪い」
「昔からですよ」



私に何も言わずに尸魂界へと行った一護。
彼に真の黒幕を告げる気もない私。



「さ、そろそろ行きますよ」
「気を付けて」
「誰に言ってるんですか」
「そうでしたね。じゃあ、あまり無茶はなさらないように」



浦原元隊長は笑顔で見送ってくれた。
目指すは尸魂界。
私の世界。



「久しぶり、一護」
「夜!?なんで此処に……」
「知らなかった?私人間じゃないんだよ」



死霸装の裾を掴んで見せれば、彼はばつの悪そうな顔をした。
皺の寄っている眉間にデコピンを喰らわせれば、今度は苦い顔になった。



「というわけで、協力させてもらうよ」
「いいのか?死神なら……」
「大丈夫、私の隊はたぶん今回の件にノータッチだから」



遠くに感じる隊長と石田君の霊圧。
知らないふりをして一護に笑いかけた。



「そっか。じゃあ頼んだぜ」
「頼まれました」



一護の頬に軽く唇を寄せれば、名前の通りイチゴ色に染まった愛しい人。
近くに感じた霊圧に眉をひそめながら、私は彼に背を向けた。



「更木隊長は強いよ」
「大丈夫だ。俺はこんなところで死ねない」
「死んだら亡骸は現世に連れてってあげる」



そして、私が魂葬してあげる。
同じ世界で生きられるように。



「さよなら、一護。大好きだったよ。さあて、藍染隊長のところにでも行きますか」



自分で縫いつけた死霸装のポケットに手を突っ込んで、私は宙を舞った。
目指すは尊敬すべき、支配者である彼の元。
双極の丘で私を目にした一護が叫ぶまであと少し。



END



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