「夜、これイヅルに渡しといてくれへん?」
「ご自分で渡したらいかがですか?」
「ええやん、はい」



隊長に渡された書類と思しき紙切れに目を落とす。
そこに書かれていたのは恐らく……副隊長の顔。



「副隊長、これ隊長からです」
「またか……。すまないね」
「副隊長こそお疲れ様です、隊長の子供じみた苛めの被害に遭って」



隊長に聞こえるようにわざと大きな声で言う。
歩数にしてわずか五歩。
隊長と副隊長の距離。



「夜、ボクお茶飲みたい」
「はいはい」



事の起こりは二日前。
隊長が後で食べようと大事に取ってあった干し柿を、副隊長が尋ねてきた松本副隊長に出してしまって。
しかもそれが運悪く最後の一包みで。
それ以来隊長は副隊長と口を聞かない。



「隊長、いいかげん子供じみた真似は止めたらいかがですか?」
「そないなこと言うたかて、悪いんはイヅルやもん」
「副隊長は謝っていらっしゃったじゃないですか。ほら、代わりの干し柿だって」
「あかんの」



口を尖らせたままそっぽ向いてしまった隊長。
隊長の所為で私の仕事が倍に増えているのだ、引き下がるわけにはいかない。



「そうですか、では私も頭に来たので隊長とお話するのを止めさせていただきます」
「夜、ちょっと……」



そのまま隊首室を出て、いつもの執務室に戻る。
本来は此処が私の仕事場なのだ。
二日前から溜まっていた書類を片付けていると、副隊長がやってきた。



「月闇君、仕事は粗方片付いたかい?」
「はい、おかげさまで何とか間に合いそうです」
「よかった。あの……隊長が呼んでるから来てくれるかい?」



あんな隊長でも隊長には変わりない。
大人しく隊首室に向かえば、満面の笑みで迎えてくれた。



「夜!やっと機嫌直してくれたんか!?」
「隊長こそ何ですか、少し前と別人ですよ」
「細かいことは気にせんと、はよ食べるよ。ほら、イヅルもや」



テーブルの上に並べられているのはいくつかの干し柿。
この独特の香りがなんとも言えない。



「ほら、遠慮せんでええから食べ。乱菊がお詫びにって持ってきてくれたんや」



臍を曲げている隊長の様子を耳に入れて、気を使ったのだろう。
副隊長と私に。
目の前の干し柿を見る。
隣の副隊長を見れば、私と同じような顔をしていて。
なんとも気まずい雰囲気が流れる。



「副隊長、ここは我慢して食べるしか……」
「無理だよ。干し柿だけは無理」



ここで断ればまた隊長は機嫌を悪くする。
もう仕事の邪魔をされるのはごめんだ。
意を決して干し柿を一つ手に取ると、副隊長の口に突っ込んだ。
そして、私も一つ齧ってみる。



「どや?美味しいやろ?」
「……美味しいです、すごく」
「そうですね……」



二人してぎこちない笑顔を作っていることに隊長は気づいていないのだろうか。
干し柿が嫌いなこと言ってなかったっけ。



「ほんまはあの干し柿三人で食べよう思うてたんや。せやのに勝手に乱菊に出してもうて……」
「隊長、すみませんでした」
「まあええわ、来年もまた干し柿作るさかい、そん時は三人で食べような」



キラキラとした笑顔で言われれば、断れるはずもなく。
副隊長と顔を見合わせて苦笑いした。



「副隊長、来年も頑張りましょうね」
「ああ、そうだね」



やっぱり隊長には敵いません。



END



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