十一番隊、今日も此処は騒がしい。



「夜ちゃん、お菓子ちょうだい!」
「やちるちゃん、あんまりお菓子ばっかり食べてると隊長に怒られるよ?」
「大丈夫!剣ちゃん怖くないから!それに、今日はお菓子もらう日なの!」



こんなことを言えるのも、幼い頃から隊長と一緒に居るやちるちゃんだけだろう。
机の上に置いてあったお菓子を渡すと、やちるちゃんはいつの間にかいなくなっていた。
せっかく後で食べようと思ってたのに。



「夜、これあげる」



諦めて再び仕事を始めると、机の上に缶が置かれた。
これはなんだろう。



「何これ」
「クッキーだよ。現世で買って来たんだ」



にこにこと言い放つ弓親とこのクッキーが繋がらなくて、思わず笑ってしまう。
彼がこれを買う姿を想像するだけで面白い。



「何?なんで笑うの?」
「だって、弓親がお菓子買うなんて珍しいじゃん」
「僕だってたまには甘いもの食べたくなるんだよ」



そっぽを向いた彼の顔は少し赤い。
こんな弓親の姿を見れるなんて、今日はツイているかもしれない。
お言葉に甘えて缶の蓋を開けると、中に入っていたのは白と黒のクッキー。
ハート型なのがまた可愛い。



「弓親も食べなよ」



一つ取って差し出すと、彼の指が少し触れた。
ただそれだけなのに、やっぱり今日はツイてるななんて思ってしまう。



「ん、美味しい」
「だね」



二人でクッキーを食べていると、執務室に一角が入って来た。
稽古をしてきたのか、少し汗ばんでいる。



「どうしたの?一角」
「別に……稽古が終わったから様子見に来ただけだ」
「仕事手伝ってくれるわけじゃないのに?」



クスクスと私と弓親が笑えば、一角はばつの悪そうな顔をした。
その時、執務室の扉が開いて死霸装を着た女の子が入って来た。
十一番隊でないことは確かだ。
書類でも持ってきたのかと思って声をかけようとすると、先に言葉を発したのはその子で。



「あの、綾瀬川五席!これもらって下さい!」



その子が差し出したのは可愛らしい桃色の包み。
弓親に贈り物?
っていうか、私達も居るのにこんな堂々と渡すなんて凄いなと思った。



「悪いんだけど、受け取れないよ。僕は君のこと知らないし、興味もないから」
「でも……」
「いらないって言ってるのがわからないの?」



笑顔でさらっと酷いことを言う弓親に、その子は薄らと目に涙を浮かべながら走って行った。
何もあんな言い方しなくてもいいのに。
そして、私の方を振り返った彼はすっと手を差し出した。



「何?」
「クッキーちょうだい」
「自分で取ればいいじゃん」
「夜が渡してくれないと意味ないから」



そもそもこれは弓親のだし、意味がわからない。
そう思いつつもクッキーを一つとって彼の掌に置けば、弓親は嬉しそうにそれを口に入れた。



「一角もいる?」



一部始終を見ていた一角にもクッキーを差し出せば、弓親がそれを取って食べた。
彼のほうを見ると、眉間に皺を寄せてこちらを見ている。
そんなにクッキーが食べたかったんだろうか。



「一角にはあげちゃだめだよ。他の誰にも」
「は?」
「全く、夜も一応女なんだから、そろそろ気づいてもよさそうだけどね」
「弓親、夜にそんなこと求めたって無理だ」
「はあ……一角でさえも気付いてるっていうのに」
「俺でさえってどういう意味だよ!?」
「そのまんまの意味だよ」



目の前で青筋を立てる一角とそれを見て笑う弓親。
二人の会話の内容が理解できない。
その日が現世でいうバレンタインデーだと知ったのは、夜になってからだった。
一カ月後がホワイトデーというものらしいので、弓親にお返しでもしてみようか。
そして、一緒に私の気持ちも伝えてみようかなんて思った。



END



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