いつだって、私の視線の先にはアイツがいた。
霊術院の時からずっと一緒で、死神になって私が六番隊でアイツが五番隊に移ってからも、その後十一番隊に移っても、私はずっとイイ友達を演じ続けてきた。
だから、だからアイツが六番隊に来るって知った時、本当に嬉しかった。



「夜、新しい副官は十一番隊の阿散井に決まった」
「嘘!?恋次ですか!?」
「そうか、夜は同期だったな」



副隊長が辞めてしばらく経った頃、朽木隊長に聞かされたのは思ってもみなかった知らせ。
私が副隊長になれればいいんだけど、生憎私はそこまでの荷を背負う勇気がなかった。
そして任官の日、アイツは背筋をしゃんと伸ばして私の前にいた。



「よろしくな、夜」
「こちらこそよろしくお願いします。阿散井副隊長」
「んな堅苦しい呼び方すんなって。いつも通りでいいぜ」



恋次が私の頭をくしゃりと撫でた。
大きな手は昔と変わらず私を安心させてくれる。
でも、それと同時に胸が締め付けられるような気がした。



「夜、……ルキアは元気か?」
「元気だよ。相変わらず隊長とはあんまり話してないみたいだけど」
「そうか」



恋次とルキアは流魂街の時からの知り合いだと聞く。
それでも、私は二人が仲良く話しているのをあまり見たことがない。
霊術院に入ってすぐ、ルキアが朽木家の養子に迎えられたからだ。
もう何十年も経つのに、いつまでも恋次の心を占めているのはルキアだってことぐらい私にもわかる。



「よう、どうだ?新しい副隊長は」
「修兵先輩……まあ、何とかやってますよ」
「あんまり無理すんなよ」
「もう慣れてますよ」



恋次が副隊長になって数か月が過ぎた。
私は三席で副官補佐。
四六時中恋次と居られるのは嬉しい。
でも、正直辛い。



「十三番隊の朽木、見つかったんだってな」
「はい。今日の夜、隊長と恋次が捕縛に行くみたいですよ」



少し前から行方不明になっていたルキア。
友人として心配していた私と、兄として心配していた朽木隊長、そして大切な人として心配していた恋次。
そんな彼の想いは一緒に居ればいるほど私に伝わってきた。



「隊長、御身体の具合はどうですか?」
「心配するほどではない。それよりも夜……」
「いいんです、これで私もやっと前に進めそうです」
「そうか。今までよくやってくれた」
「こちらこそ、今まで本当にありがとうございます」



あの事件の後、入院している隊長を尋ねたら私のほうが心配された。
大丈夫、私はもう前を向くって決めたんだ。
あの騒動の中、恋次はルキアを助けるために隊長と刃を交えたと聞いた。
事が終わった後の彼はボロボロだったけど、満足気な表情だった。



「今日から九番隊に異動になりました、月闇夜です。どうぞよろしくお願いします」
「まあ、そんな堅苦しくしなくていいからよ。今うちの隊は大変だけど頑張ってくれよな」
「はい、望むところです」



隊長が抜けて隊としての機能が危ぶまれた九番隊。
そこから引き抜きの話が来て私は二つ返事でそれを受けた。
もうけじめをつけたいと思ったから。
あの事件の後、昔のように仲良くなった二人を見ていたらルキアに嫉妬してしまいそうだったから。



「そうだ、夜」
「なんですか?」
「今までお疲れ様……って一応言っとくぜ」
「ありがとうございます」
「これでやっと俺にもチャンスが回って来たな」
「はい?」



修兵先輩が私の頭をくしゃりと撫でた。
大きくて温かい手。
今、私の視線の先にいるのは一体誰なんだろう。



「失礼しまーす……って、夜相変わらず先輩と仲いいな。朝から見せつけんじゃねえよ」
「煩いよ恋次、自分が前に進めないからって人に当たらない!」
「そうだぞ、阿散井。お前も俺を見習え」
「嫌っスよ。先輩見習うなんて俺には無理っス」



朝、いつものように副官室で修兵先輩の仕事を手伝っていると恋次がやってきた。
どうやら今度現世に行くらしい。
死神代行のサポートとかで。
ルキアに怪我させないでよって言ったら当たり前だと返された。
もうあの大きな手は私の頭の上に置かれることはない。



「じゃあ、俺もう行きますから。先輩、俺のいない間に夜泣かせたら承知しませんよ」
「お前に言われなくてもわかってんだよ。ほら、さっさと行け。邪魔すんな」
「はいはい、じゃあな夜」
「うん、気を付けてね」



笑顔で見送れたと思う。
もう演技をする必要はなくなった。
恋次は私の友人だ。
私は今、視線の先に違う人を捉えているから。



END



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