「隊長、お疲れ様です」
「月闇君か、ありがとう。どうしたんだい?こんな遅くまで」
「今日中に仕上げないといけない書類があったものですから」
「御苦労様、よかったら君もどうだい?」



隊長に促されてソファに座る。
テーブルに置かれた二人分のお茶は静かに湯気を立てている。
月に数回訪れるこの時間。
私はこの時間が大好きだ。
ほんの一時でも藍染隊長と一緒に居られるから。



「相変わらず、君の淹れてくれるお茶は美味しいよ」
「ありがとうございます」



私が藍染隊長の下で働くようになってもう何十年も経つ。
順調に席次を上げてはきたけれど、今の席次からさらに上に上がるのはどうやら無理らしい。



「雛森君の淹れてくれるお茶も美味しいけれど、それとはまた違った味だ」
「そうですか?」



雛森副隊長が藍染隊長のことを心から尊敬しているのは知っている。
彼女は強くそして優しい。
私もそんな彼女のことを上官として心底尊敬している。
だからこそ、私はこの想いをずっと心の内に留めてきた。



「五番隊は好きかい?」



唐突に尋ねてきた隊長の目は優しい。
しかし眼鏡のレンズ越しに見えるその眼は、優しいようでどこか鋭い。
昔からそうだった。
隊長はいつもニコニコとしているのにどこか危うさを感じさせる。
それは三番隊の市丸隊長にも似た不思議な感覚だ。



「はい、もちろんです」
「そうか、良かった」
「どうしてそんなことを?」
「いや、何でもないんだよ。もうすぐだと思ってね」



わかってますと小さく呟いて、テーブルに置かれたもう一つのお茶に手を伸ばした。
本当は席次なんてどうでもよかった。
いつかは意味のないものになるから。



「そろそろ準備をしないとね」
「はい」
「君の淹れたお茶が飲めるのも後少しだ」
「煎茶以外も練習しておきますよ」
「それは楽しみだ」



あ、でも煎茶もやっぱり持って行こうかな。
たぶん恋しくなるだろうし。
市丸隊長や東仙隊長もきっと喜んでくれるはず。



「すまないね、君を出世させてあげることができなくて」
「いいんですよ、だってそのほうが私も動きやすいですし」
「そうだね、君にもやってもらわないといけないことがあるからね」



私はこの時間が大好きだ。
半分は純粋に藍染隊長と一緒に居られるから。
そして、もう半分はやがて裏切られるであろう者達への背徳感から。



END



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