「六番隊なんて冗談じゃないっスよ!」
「煩え、昇格すんだからいいだろうがよ」
「そういう問題じゃない!」



十一番隊隊舎に響き渡る大声。
その声の主は隊長の更木と四席の月闇夜のもの。



「夜、かなり怒ってるね」
「まあ、異動先が六番隊だからな」



隊首室を覗いているのは同隊三席の斑目と五席の綾瀬川。



「とにかく、絶対に嫌ですからね!」
「つべこべ言わねえでさっさと挨拶に行け」
「嫌だっつってんでしょうが!」
「夜さん、落ち着いて下さいよ」



隊首室で言い争っている両名の間に入ったのは六番隊副隊長の阿散井。
夜が今回の異動に異議を唱えることを予想して更木が呼びつけていたらしい。



「煩えよ、恋次」
「煩くてもいいっスから、行きますよ。朽木隊長に怒られんのだけは勘弁なんで」
「嫌だっつってんだろ、離せ!」



まだ喚いている夜を引きずるようにして連れ出す阿散井の姿に、かつての上司達はその成長を喜んでいた。
そして当の夜はというと。



「わかったよ、行けばいいんだろ行けば」
「お願いしますよ、特にその口調」
「はいはい、善処致しますよ阿散井副隊長殿」
「別に俺にはいいんっスけど、絶対馬鹿にしてるでしょ?」
「そんな、滅相もございませんわ阿散井副隊長殿」



少しは大人しくなったようだが、ただ単に攻撃を直接攻撃から精神攻撃にシフトさせただけらしい。
嫌な役を引き受けたものだと溜息を吐く阿散井を他所に、目的の六番隊へ着くなり夜は隊首室へと走って行った。



「どーもー、今度三席になります月闇夜ですー」
「夜さん、ちょっと!」
「構わぬ、そなたが夜か。よろしく頼んだ」
「じゃ、挨拶は済んだってことで」



交わした会話はそれだけ。
夜は瞬歩で六番隊を後にした。
それを追いかけた阿散井が目にしたのは驚愕の姿。



「夜さん……顔真っ赤っスよ?」
「煩え、黙ってろ野良犬」



十一番隊の庭の隅でしゃがみこんでいる夜の顔は真っ赤に染まっていた。
何かあっただろうかと阿散井は考えを巡らせるも、思い当たる節はない。
ただ六番隊に行き、隊長の朽木と顔を合わせただけ。
そう、朽木白哉と。



「もしかして……隊長に一目惚……」
「煩え黙れそれ以上何か言ったらその髪毟るぞ一角みたいにハゲにされてえのかコラ」
「いえ何でもないっス」



面白いものを見たと内心嬉しく思いながら六番隊に戻ると、待ち構えていたのは彼の上司である朽木で。
彼はいつものように無表情でぽつりと呟いた。



「恋次、夜は流魂街出身の者であるか?」
「そうっスよ、かなり治安の悪い地区に居たって聞きましたけど」
「そうか」



何かを考えているような上司の仕草に疑問を持ったが、たいして気にすることではないだろうと思い、新しい三席を迎えるための準備に取りかかった。



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