初めはただの興味の対象にすぎなかった。
あくまでも実験材料としての、だ。



「ねえ阿近、隊長の霊圧感じない?」
「そういやそうだな。何か面白いもんでも見つけたんじゃねえの?」



どうでもいいといった口ぶりで阿近は答えたけれど、あの隊長が斬魄刀を解放したのだ。
よほど手に入れたいものが見つかったか、あるいはよほど苦戦しているに違いない。
前者であればいいと思いながら、隊長の元へと向かった。



「あれ……滅却師?」



辿り着いた先にいたのは、自隊の隊長である涅マユリと一人の少年。
少年の手には弓が握られており、一目で滅却師だとわかった。



「隊長も面白い材料を見つけたものね」



思わず笑みが零れた。
瀞霊廷に乗り込んでくるあたり、少しは手馴れなのかもしれないけれど、仮にも護廷の隊長に勝てるわけがない。

それでも彼は諦めることをしなかった。
隊長の卍解を受けてもなお無理矢理に立ちあがる。
そして、隊長に向けて矢を放った。



「嘘……」



そして、その少年は隊長に勝った。
正確には追い払ったんだけれど。



「ねえ君、何で尸魂界に来たの?」



ネムが少年に薬を渡して去った後、少年に話しかけてみた。
私を見る少年の瞳は鋭い。



「……クラスメイトを助けるために」



さっぱり意味がわからなかったけれど、そのクラスメイトとやらが尸魂界に、瀞霊廷にいるのだろう。
友情なんて、大層なものだ。



「君、名前は?」
「死神に名乗る名なんて持ち合わせていないよ」



なるほどね。
滅却師にとって、私たち死神は敵ってわけだ。



「そ。私は月闇夜、十二番隊五席よ」
「十二番隊……涅の部下か」
「まあ、そんなところね」



そして、私はまだ動けないでいる少年の胸に手をかざした。
少しだけ持っている治癒霊力を使うために。



「しばらくここで休んでいなさい。直に四番隊が来るわ」



じゃあね、石田雨竜君。
そう言って私は少年をその場に残し、隊舎へと戻った。



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