「―――ちょっとこっち来い!」



ああ、あのハゲが。
苗字で呼ぶなと何度言ったらわかるんだ…。



「一角!名前で呼べって言ってるでしょ!?何度言ったらわかんのよ!」
「はいはい、ったくうるせえな〜」
「”はい”は一回!実験台にされたいの?」
「はい…。お前が言うと洒落になんねーんだよ」



だって洒落じゃないもん。
本気も本気。
ものっすごい本気。
だって私は苗字で呼ばれるのが大ッ嫌いだから。
あの馬鹿兄貴の妹だってこと、嫌でも思い出しちゃうじゃない。
一角に呼ばれて行くと、隊長がニヤニヤしながら私を待っていた。
やちるも気持ち悪いくらいの笑顔でこっち見てる。
…嫌な予感しかしない。



「隊長、何の御用ですか?」
「夜、お前に頼みがあってな」



ほらきた。
私に頼みだなんて、どうせろくでもないことなんだろうけどさ。



「夜ちゃん、剣ちゃんの新しい眼帯貰ってきて!」



副隊長のやちるが私に飛びついてきた。
これあげるからと金平糖を渡されたけど、私そんなんで釣られるほど餓鬼じゃないんですけど…



「ご自分で取りに行かれたらいかがですか?」
「ほう…お前は上官の命令に逆らうってのか?」



いやいや、こんなときだけ隊長面されても困りますから。
そんなことならこちらにも考えが。



「それなら、今夜奢ってくれます?」
「そんなもんでいいのか、いいぜ奢ってやる」



言ったね?言ってしまいましたね隊長?
後悔しても知りませんよ。
私は上機嫌で十一番隊を出た。
十二番隊に着き、さっさと技局へ向かう。
いつ来てもここは悪趣味な場所だ。
至る所に虚の残骸が飾ってある。
とりあえず、一番安全そうな人の所へと足を向けた。



「阿近さーん、隊長の眼帯取りに来た」
「なんだよ、夜か。更木隊長の眼帯なら、今局長が最終調整してるぜ」



うわっ最悪。
このまま帰っちゃおうかななんて思っていると、背後に霊圧を感じた。
この霊圧は…もしかしなくてもアイツだ。



「夜、技局に来るなんて珍しいじゃないカネ。漸く私の下で働く気になったのかい?」
「馬鹿なこと言わないでよ。死んでも馬鹿兄貴の下でなんて働かない」



そう、私は十一番隊四席涅夜。
目の前に居る十二番隊隊長涅マユリは悲しいかな、紛れもなく私の兄だ。



「そんな悲しいこと言わなくてもいいじゃないかネ。私は可愛い妹をあんな野蛮人の元で働かせるほど薄情な兄ではないヨ」



何をいけしゃあしゃあと。
見方によってはアンタのほうがよっぽど野蛮人だよ。



「はいはい。私は隊長の眼帯取りに来ただけだから」
「フン。そんなものとっくの昔に出来ているヨ」



ポイっと私に眼帯を投げると、兄貴はスタスタと去って行った。
後ろに控えていたネムが小さく私に会釈する。



「失礼します、夜様」



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