用事を思い出して夜の部屋を出た。 自室に向かう途中、遠くで彼女の霊圧とそれに近づくギンの霊圧を感じた。 気が付けば足は再び彼女の部屋を目指していた。 彼女の部屋に入れば、目に入ったのは二人が並んで座る光景。 どこか遠くを見ているギンとただ空を見上げる夜。 同じ場所にいるのに、二人は全く別の光景を見ていた。 夜が私に気づいて振り返る。 月明かりに照らされたその顔はいつもとは少し違って見えて、彼女がどこかへ消えてしまうのではないかと思う程に儚かった。 「君が月闇君か。よろしく頼むよ」 「はい、藍染隊長」 彼女との出会いは至って平凡だった。 ただ私の隊に異動してきた隊士、ただそれだけのはずだった。 そこそこ力もあってほどほどに賢く、そして目立ちすぎない容姿。 使える、そう思った。 「私を、ですか?」 「ああ、僕は君を好いている」 「ありがとうございます」 隊長という地位に惹かれて寄ってくる女は嫌いだった。 かといって蔑にするわけにもいかず、いい方法はないかと考えていたところに現れた彼女。 他の者にうとまれるでもなく、いざとなったら消してしまえる程度の存在。 彼女に望んだのはただそれだけだった。 ただそれだけのはずだったのに。 「私は君を見くびっていたようだね」 瞳を閉じて安らかな寝息を立てる夜の頭を撫でる。 彼女は思っていた以上に聡かった。 彼女は思っていた以上に強かった。 そして、彼女は思っていた以上に美しかった。 「始末できなくなるじゃないか」 聞こえているのかはたまた夢の中なのか。 彼女がわずかに動いた。 再び寝息を立て始めたところを見ると、どうやら本当に寝ているらしい。 それでも、もしかしたらそれは私の勘違いで、彼女は全て知っているのかも知れない。 私の目的も、彼女への想いも全て。 「だから離せないんだ……」 眠る彼女の手を握れば、わずかに力が込められた。 この平和な日々を壊そうとしているのは、間違いなく私なのに。 END ← back |