薄明かりの差し込む部屋の中、私と貴方の二人きり。 文字通り恋人という関係にある私達二人の素顔を知る者は少ない。 「惣右介、今日はもう帰るの?」 「ああ、最近は準備に忙しくてね」 「そう、気を付けてね」 「ありがとう」 惣右介は私の唇に触れるだけの口づけをして部屋を出て行った。 私の部屋を一歩出れば、藍染隊長の顔になる。 もう長いこと彼の傍に居るけれど、未だに彼が外でその表情を崩したのは見たことがない。 彼が去った後、一人縁側に腰掛けて月を眺めていた。 夜空に丸く浮かぶそれは、私には酷く孤独なように見えた。 いくら想われようとも、誰にも触れられない。 まるで惣右介のようだ、と小さく呟けば目の前に銀色が舞い降りた。 「こんな夜更けに一人で何してはるの?」 「ギンこそ。惣右介は準備で忙しいって言ってたよ」 「藍染隊長はいろいろやらなあかんことがあるさかい。ボクはいつだってあの人の命令に従うだけや」 隣に座ったギンもまた、あの月と同じように孤独を感じている一人なのかもしれない。 大事なものを護るために自らを押し殺して。 「ギンだって忙しいんじゃないの?ほら、身辺整理とか」 「人聞きの悪いこと言わんといてや。まあ、あながち間違いでもないけどな」 「少しは惣右介を見習いなさいよ」 「嫌や、藍染隊長みたいになるんは勘弁」 いつものように笑っているその表情はどこか遠くを見ていた。 すると、背後に霊圧を感じ、振り向けば先ほど部屋を出て行ったはずの惣右介が立っていた。 「惣右介、どうしたの?」 「ギンの霊圧を感じてね。また夜にちょっかいかけているんじゃないかと思って」 「おお怖。藍染隊長は何でもお見通しですわ」 お互いに笑い合っている二人。 けれども二人ともがお互いの胸の内を明かさない。 きっと気づいてはいるんだろうけど、決してそれを口には出さない。 「夜、暖かくなってきたとはいえ夜は冷える。中に入りなさい」 「うん、ありがと」 ふわりと私の肩にかけられた羽織は惣右介の匂いがした。 いつの間にかギンは消えていて、再び私と惣右介の二人だけになった。 「あんまりギンと二人で居るんじゃないよ。私が妬いてしまうからね」 「そんなことない癖に」 「心外だな。私は夜のことをこんなにも愛しているのに」 「そっか、ありがと。私もだよ」 わかってる、自らの立ち位置は。 それでも今は、少しでもこの平和な日々が続けばいいと願った。 → back |