「恋次、夜を呼んで来い」
「はい!」



上司である朽木に言われて夜を呼びに行く阿散井。
彼の足取りは重い。
それもそのはず、六番隊に異動してきてからというもの、夜は朽木と顔を合わせることを極端に避けていた。
平隊士ならまだしも、三席ともなれば隊長と顔を合わせることも少なくはない。
そして結果的に阿散井の仕事が増えているという始末。



「夜さん、隊長が呼んでますよ」
「私は風邪ひいてるから無理、隊長に移すから近寄れない」
「何言ってんスか、昨日あんだけ酒飲んでりゃ元気でしょうが」
「煩い黙れ副隊長殿」



一向に朽木の元へ行こうとしない夜に頭を抱えていると、当の朽木がその場に姿を現した。
纏う霊圧は怒りに満ちていて、副隊長とはいえ息苦しさを感じる。



「夜、来い」
「嫌です」
「来いと言っている」
「嫌だっつってんですよ朽木隊長」



夜の言葉など聞こえなかったかのように、朽木は夜の死霸装の襟を掴むと引きずるようにして隊首室へと連れていった。
隊首室に入るとソファに夜を放り投げてその前に座る。
一向に目線を合わせようとせずに口を尖らせている夜に構うこともなく、朽木は話し始めた。



「夜であろう?」
「何言ってんですか、知っての通り私は夜ですよ、月闇夜」
「そのようなことを言っているのではない。よもや忘れたのではあるまいな」



その言葉に夜は顔を上げる。
視線が朽木とぶつかり思わず目を逸らした。



「何故私のところに来なかった、死神になったら私のところに来る」
「申し訳ございませんねえ、まさかあの白哉が四大貴族のお坊ちゃんだとは夢にも思いませんで」
「そのようなことは関係」
「どうせ私みたいな流魂街出身の血に塗れた餓鬼が尋ねて行っても迷惑なだけでしょうが」
「それでも私」
「大体私だって気付いてたんならなんで六番隊になんて異動させたんだよ?私には更木隊が合って……」



黙れ。
朽木の一言と共に、二人の間にあった机がガタンと音を立てて揺れた。
夜の身体は今や朽木の腕の中。
離すまいとしっかりと抱きとめられた腕の中では夜が涙していた。



「夜だとわかっていた故六番隊に引き抜いた。ずっと、あの日からずっと待っていたのにそなたは私の元に姿を見せなかった。私のことなどとうに忘れているのかと……」
「馬っ鹿じゃないの、白哉のことを忘れるわけないじゃん。私は白哉が居たから、白哉に会えるから死神になったのに」
「白哉、とまた呼んでくれるのか?」



腕から夜を解放し、その頬に手を添える。
涙で濡れる顔はかつての幼い少女のものではなく、いつのまにか女性のものへと変わっていた。
それでも、にっこりと笑った笑顔は昔と何も変わっていない。



「当たり前じゃん、白哉」
「夜……」



一触即発だった二人が一転、何とも和やかな雰囲気に変わった一部始終を見ていた阿散井は、目の前の状況が信じられなかった。
彼の知る上司は微笑みなどほとんど見せない者で、彼の知る元上司であり現部下はあんなに女らしい笑い方をする者ではなかったはず。



「やっべえ、とんでもないことになっちまったな……」



ぽつりと呟いた彼の真の苦悩は、これから始まるのだ。



END



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