「弓親ー私六番隊になんて行きたくないー」
「何言ってんの、三席だよ?これで一角に敬えとか言われなくなるよ?」
「そりゃあ三席になれば今より給料も増えるし、副隊長は恋次だから気が楽だけどさ……」
「そんなに朽木隊長のこと嫌いなの?」



嫌いか、と聞かれれば答えは否。
むしろ嫌いであったほうが楽なのかもしれない。



「私さ、昔朽木隊長に会ってんだよね」
「は?夜流魂街出身でしょ?」
「まあね」



それは遠い昔、私がまだ流魂街に居た頃の話。

流魂街の中でも数字の大きい地区、つまり治安の悪い地区に降り立った私は盗みや殺し、何でもやってきた。
それでもこんな酷い生活から逃れたくて、必死に治安の良い地区へと逃げた。
しばらく経って辿り着いたのは瀞霊廷を目の前にした地区。
そこでは比較的まともな暮らしができていたように思う。
とは言っても、霊力があってお腹の空く私は食べ物を手に入れるために盗みを繰り返していた。

そんなある日、遊び半分で瀞霊廷内へと忍びこんだ。



「貴様、何をしている」
「げっ……って餓鬼か」
「餓鬼とは何だ、貴様こそまだ子供ではないか」
「貴様じゃないよ、私は夜。アンタは?」
「私は白哉だ、朽木白哉」



それが少年、朽木白哉との出会いだった。
どうやら私が忍び込んだのは朽木家の屋敷だったらしく――とは言っても当時の私は朽木家がどのようなものか知らない――そこの息子である白哉と何故だか仲良くなって、週に一度は敷地内に忍び込んで共に遊んでいたのだ。



「ねえ白哉、アンタは死神になんの?」
「当たり前だ。私は御爺様や父様のような死神になり、朽木家を支えていく身だ」
「へえ立派だね」
「夜も死神になればよい、霊力があるのだろう?」
「霊力はあるけどさ、勉強なんてたるいし」
「死神になれば瀞霊廷で暮らせるのだぞ?こうして人目を盗んで会わずともよい」



ただ、その言葉が嬉しかった。
生まれてこの方人に優しくしてもらったことなんてなかった私にとって、この白哉という少年は初めての友であり初恋の人だったのだ。



「白哉、私死神になるよ!」
「そうか、死神になったら知らせに来い」
「当たり前じゃん、一番に白哉に教える!」



そして霊術院の入学試験に合格した私は、入学式の前日に白哉に会いに来ていた。
この時、私は彼に伝えなければならないことがあった。



「白哉、私さ……」
「夜、お前が死神になったら、強くなったら……」



私の言葉は白哉によって遮られた。
この時の白哉はいつもと違って難しい顔をしていて、何故だかその続きを聞きたくなかった。
もしかしたらもう来るなと、お前みたいな血に濡れた汚れた奴とは関わりたくないと言われるんじゃないかなんて思ってしまったから。



「白哉、私はアンタのことが好きだよ!じゃ、行くわ!」



ずっと伝えたかったことだけを吐き捨てて、後ろを振り返ることもなくその場を去った。
朽木家が四大貴族の内の一つで、白哉がその跡取りだと知ったのは霊術院に入学してすぐのこと。
我ながらとんでもないことを仕出かしたものだと思い、初恋は自分の中奥深くに封印したはずだった。



「で、今も朽木隊長のことが好きなんだ?」
「ば、違えよそんなんじゃねえ!」
「誤魔化しても無駄だって、そんな真っ赤になって」



ケラケラと笑う弓親だけど、馬鹿にしているようには思えない。
死神になって数十年、ずっとこの更木隊に居たからあの少年朽木白哉と顔を合わせることはなかった。
それなのにどうして今になってあの人の居る隊に異動なのだろうか。
運命を呪いたい気分だ。



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