「隊長のところに行ってきたのか?」



隊舎に戻り、技局へと向かった私を迎えたのは阿近だった。



「ええ、隊長ならしばらく出て来れないと思うわ」
「それじゃあまさか……」
「旅禍が勝ったわ。石田宗弦の孫がね」



私はかつて滅却師の研究に関わっていた。
ボロボロになった最後の監視対象の彼が最後に紡いだ言葉、それは彼の孫の名前だった。



「雨竜、ね……」



隊長に報告しようかと思ったけれど、なんとなくそうしなかった。
瀞霊廷に旅禍が侵入し、その中に滅却師が居ると聞いた時、真っ先に浮かんできたのだ石田雨竜だった。



「気になんのか?その旅禍」



阿近が怪訝そうな顔で私に問う。
無理もない、私が興味を持つ対象は例外なく実験台にされる。
興味を持たれるということは死とイコールなのだ。



「大丈夫よ、殺しはしないわ」
「あんまり苛めんなよ」



なぜ殺しはしないと言ったのか、自分でもよくわからなかった。
そしてそれから数週間後、私は現世へと来ていた。
目的はもちろんあの滅却師の少年。
霊圧を辿って行くと、着いたのは何とも質素なアパートだった。



「中に居るみたいね」



義骸には入ってなかったので、壁をすり抜け中へと入る。
霊圧を消した私に少年は気づいていないようだ。



「こんにちは、雨竜君」



机に向かっていた少年の背後から声をかけると、彼は振り返り驚いたような表情で私を見た。



「貴女は確か……月闇夜」
「覚えていてくれて光栄だわ」



にっこりと笑ってみれば、彼は不信感を露わにした。



「何をしに来たんだ。涅の命令か?」
「違うわ。隊長は力を失った滅却師になんて興味ないと思うけど」



そう言うと、彼の表情が曇った。
しかたないわ、事実だもの。



「今日は貴方に伝えたいことがあって来たの。御爺様のことよ」



少しだけ、ほんのわずかだけ彼の表情が変わった。



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