「夜ちゃん!?」



聞こえてきたのは懐かしい声だった。

あの日、現世でその生を終えた私は尸魂界へとやってきた。
市丸さんの話を聞いていたせいか、不思議とすぐに馴染むことができた。
空腹を感じるという私に、流魂街でお世話になっている人は死神になれるよと言った。
死神になればまた市丸さんに会えるかもしれない、そう思って決意を固めて霊術院へと向かったのが昨日の昼間。

それなのに、なぜか私は無数の虚に襲われていた。



「市丸、さん……」



あの日からずっと、会いたくて仕方のなかった人が今目の前にいる。
あの日と同じように背中に三の文字を背負って。



「大丈夫?怪我してへん?」



私じゃどうにもならなかった虚を全滅させた後、市丸さんは座り込んでいた私をそっと抱きあげた。
見上げた先にあるその瞳は優しい。
何も……何も変わっていなかった。



「大丈夫です、ありがとうございます」



無理矢理に笑顔を作った。
止めようとしても止まらない次々と零れてくる涙に濡れた顔で、精一杯笑った。



「怖かってんやね、もう大丈夫やさかい」
「違います、怖いんじゃなくて……嬉しくて……」



また市丸さんに会えたことが。
一度ならず二度までも、こうして私の命を助けてくれたことが。
私の言わんとすることがわかったのか、市丸さんの私を抱える腕に力が入った。



「あん時は助けられへんでごめんな、もうあないな思いしたくない……」



謝罪なんて必要なかった。
あの時現世で死したからこそ、私は今こうして市丸さんと同じ世界に居られる。
気が付けば日が昇り、辺りは明るくなっていた。
そして、市丸さん越しに見る空はとても蒼く澄みきっていた。



END



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