「市丸隊長、どうされたのですか?」 「別に……なんでもないよ」 隊首室の窓から赤い空を見る。 こんな空は嫌いや。 最初はただの暇つぶしのつもりやったのに。 「御身体の具合が悪いようでしたら、今日はもう……」 イヅルが心配してくれとるんはありがたいけど、今は一人でおる気にならん。 無理やりにでも仕事して手動かしとったほうが気が晴れるんや。 あれから何年経つんやろうか。 ボクはたった一人の命を守ることができんやった。 死神になって、隊長になって強うなったはずやのに。 「イヅル、今日はもう上がってええよ」 疲れとるやろ、というと副官は驚いたような表情をした。 無理もないな。 いつものボクならこないなこと言わへんもんな。 「気にせんでええよ。ボクかてたまには仕事するし」 失礼しますと言って帰っていく副官の後ろ姿を見送り、ボクはまた机上の書類に目を通し始めた。 これを全部終わらせよう思うたら朝までかかるんやないかな、なんて思いながら。 「なんや、地獄蝶かいな」 日付が変わってしばらく経った頃、ボクの部屋に地獄蝶が入って来た。 ひらひらとボクの周りを舞いながら用件を告げた。 「今日ボクが居ってよかったんかもしれへんな……」 ぽつりと呟きながら外へと向かう。 こんな深夜に駆り出されることもそう少なくはない。 普段はイヅルが行っているんやろうけど、今日くらい休ませたってもええかなと思う。 のんびり地獄蝶に知らされた場所へ向かっとったけど、近づくにつれてなんや嫌な予感がしてきた。 そしてボクは瞬歩を使って一気にその場所へと。 目にしたんはいつか見た光景やった。 ←→ back |