市丸さんが家にやってきてもう一カ月。
相変わらず私が家に帰るとおかえりと言って迎えてくれる。
昼間何をしているのかと聞けば、本来死神がいる場所に帰って仕事をしているらしい。
最近は死神としての仕事について話してくれるようになった。
とはいっても、市丸さんがやるのはほとんど机上の仕事なのだそうだ。



「ねえ市丸さん、いつまでここに居てくれるんですか?」



最近気になっていることを聞いてみた。
話を聞く限り、市丸さんはとても忙しい人だ。
そんな人が人間の私の家に毎日通っているなど、普通に考えればおかしなことで。



「夜ちゃんが嫌になるまで、のつもりなんやけど」



いつものように微笑んで市丸さんは言った。
こんなことをさらりと言ってのけるけれど、私たちは別に恋人だとかそういう関係ではない。
ただ私の家に市丸さんが住みついている、それだけのことだ。



「じゃあ、私が死ぬまでの間はここにいて下さい」
「ええよ」



市丸さんが現れてからというもの、それまで私の中を埋め尽くしていた死にたいという感情は薄れていた。
きっと、彼が私の毎日を色のあるものに変えてくれたからなんだと思う。
私は彼に感謝している。
それはもう言葉では言い表せないくらいに。



「そうや、明日はボクお休みなんよ。夜ちゃんもお休みやし、二人でどっか行こか」
「いいですね、市丸さんの行きたいところがあれば案内しますよ」



市丸さんと二人で昼間にどこかにでかけるということはあまりない。
昼間はここ――現世に市丸さんがいないということと、私も仕事で家にいないからだ。
そんな中、二人で出掛けられるということに心が躍った。

翌日、目を覚ましてリビングに行くと、そこには普段と違う服装に身を包んだ市丸さんがいた。
彼は家に居る時は着物を着ている。
そのほうが落ち着くのだそうだ。
けれどそれで外に出ると目立ちすぎてしまうと言って、彼は何着かの洋服を持っていた。



「相変わらず似合っていますね」
「せやろ?これ乱菊が見立ててくれたんよ」



心がちくりと痛む。
乱菊というのは、市丸さんの幼馴染らしい。
彼の口から出てくる人の名前といえば、この乱菊さんか彼の部下であるイヅルさんか元上司である藍染さんくらいだ。
私の知らない彼の顔があることを改めて認識してしまう。
そんな私の心情を知ってか知らずか、市丸さんは少し眉を下げた。



「せっかくのデートやし」
「デート?」
「そや。普段は外に出られへんからね」



少し、心が軽くなった。
こんな些細な一言で振り回される私は、やっぱり彼に恋をしているのだと思った。



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