「お前も、もう少し局長に優しくしてやりゃあいいのに…」



二人が去った後、阿近が私のほうをニヤニヤと見ながら言う。



「誰があんな研究馬鹿に優しくなんかするもんか」



阿近の傍らにあった煙草を奪いながら吐き捨てる。
あの馬鹿のおかげで、私がどれだけ苦労してきたと思ってんだか。



「局長、ああ見えてもお前のこと心配してるんだぜ?」
「知ってるよ。兄貴がシスコンだってことくらい」



そう。
兄貴もといあの馬鹿は重度のシスコン。
それが私の苦労の原因なんだっつうの。
ある時は私に監視用の虫をひっつかせたり、またある時は隊長の地位をフル活用させて私を異動させようとしたり。



「ことごとく失敗してるみたいだけどな」



当たり前じゃない。
監視虫は片っ端から叩き潰してやったし、今は一番兄貴に屈しなさそうな更木隊長の元に居る。
兄貴の思い通りになんてさせるもんですか。
でも、あの時はさすがにびっくりしたな。
初めてネムを見た時…あの時はリアルに心臓が止まるかと思った。

兄貴が隊長と局長に就任してすぐの頃、私は兄貴に呼ばれて十二番隊に行った。



「夜、私の娘だヨ」



あの馬鹿の子供を産むさらに上をいく馬鹿が居るのかと思い、それだけでも驚いた。
それなのに…兄貴は私の予想の遥か上いや、斜め上をいっていた。



「はじめまして、叔母様。ネムです」



そう言って私に頭を下げた少女はまさしく私。
まあ、私はこんなにおしとやかじゃないし、こんな丈の短い死覇装なんて着ないし、何より兄貴のことを”マユリ様”だなんて絶対に呼ばないけど。
とにかく、ネムは私そっくりだった。
いい子なんだけどね。
“叔母様”という呼び名は、もちろんすぐにやめさせた。



「全く、あの馬鹿もいいかげんにしてほしいよ」



阿近から奪った煙草をふかしながら私は言う。
ふと時計に目をやると、結構な時間が経っていた。
そろそろ戻らなきゃと思い、部屋を出て行こうとすると阿近に止められた。



「おい、今日は”アレ”置いていかないのかよ?」



ああ忘れてた。
私は持っていた袋を阿近に投げつける。



「あの馬鹿に渡しといて」
「お前も素直じゃねえよな…」
「うるさい…じゃあね」



私は急いで技局を出た。



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