「何笑ってんだよ!」 耳まで真っ赤にした一護は、とてもじゃないけど正義のヒーローには見えない。 目の前にいるのはただの高校生の黒崎一護。 でも、それを拒むかのように大きな音が鳴る。 「悪い、俺行かねえと」 「うん、行ってらっしゃい」 笑顔で送り出す私。 心の中は大雨だ。 「ばーか」 一護が居なくなった後、一人で空を見上げる。 夕焼けの空はオレンジ色で、悔しいことに一護を思い出してしまう。 「馬鹿…」 いつからだろう、一護は私のヒーローじゃなくなった。 出会いは高校に入学してすぐだった。 他校生に絡まれていた私を助けてくれたのが一護。 それから水色君達と同じクラスだってことがわかって仲良くなった。 気づけば好きになっていて、嬉しいことに一護も同じ気持ちだった。 夏の初めくらいかな、一護のクラスに転校生がやってきた。 それからだった、一護の様子がおかしくなったのは。 「夜ちゃん?」 そんなことを思っていると、後ろから声がした。 振り向くと、織姫ちゃんが笑っていた。 「どうしたの?」 「それは夜ちゃんのほうだって。何かあったの?」 私はそんなに酷い顔をしているのだろうか。 そう思って顔を触ってみると、頬が濡れていた。 「黒崎君のこと?」 「うん…まあ…」 意外にも鋭い織姫ちゃんに思わず苦笑する。 織姫ちゃんはきっと、私なんかよりもずっと一護のことを知っている。 「責めないであげて?黒崎君は夜ちゃんのことを大事に思ってるよ」 そんなこと知ってる。 今日みたいに突然用事ができたとか言ってどこかへ行ってしまうことはあるけれど、学校に来ている日は必ず私に会いに来てくれる。 それが一護の精一杯の優しさなんだってことも知ってる。 ←→ back |